main | ナノ





いつも通る道に猫がいたならば、1日目はなんとも思わずに素通りするだろう。それが2日目も同じならばデジャヴを感じながらも意識して猫を見るだろう。それが3日目になると不思議な感情が生まれ、手を差し出したり声を掛けたりするだろう。4日目になろうものなら、猫に愛着も涌くだろう。そしてまた次の日も次の日もと考えてしまうのだ。だが、5日目には猫はおらず1週間後にふらりと何食わぬ顔で現れては愛嬌を振り撒く。まさに猫なのだなまえみょうじという人は。最後僕にまとわりついてきたのは確か試験日の最終日だから5日前だ。4日前にはグリフィンドールの兄さんにくっ付いていた。


「レギュラス!」
「あなたは雲みたいな人だ」
「は?」
「掴みどころがないってことです」


スタスタと敢えて素通りを決め込もうとしたのに、なまえさんは僕の腕に自身の腕を絡ませる。昔の僕ならば翻弄されただろうが、今はもう免疫が付きどうということはなかった。


「ねぇレギュラス」
「何ですか」
「ううん、やっぱり何でもない」


くすくす笑いながらもなまえさんは離れずに居る。端から見れば普通のどこにでもいるカップルのようなその姿。
だがなまえさんは色んな人に尻尾を振るのを知っている。


「なまえさん」
「ん?」
「いい加減ふらふらするのやめてもらえませんか?」
「え」
「僕を惑わすのはもうやめて下さい」


昔はよく彼女の一言一言に一喜一憂した。だが後になって分かった、この人はこういう人なのだと。


「お願いだから」


ぴたっと立ち止まり、なまえさんを見つめた。なまえさんの瞳が揺れたのが分かった。


「な、に言ってるの?」
「僕と兄さんどちらがいいのかはっきりさせて下さい」
「レギュラス…」
「そして兄さんを選ぶのなら今後一切僕に話しかけないで下さい。その逆も然りです」


内心選んで欲しい気持ちがあるというのに、口からはどちらでもという風に取れる言葉が並ぶ。そして少しの沈黙。


「…私、そういうつもりじゃ」
「複数人に過度なスキンシップもいかがなものかと思いますが」
「私が、好きなのはレギュラスよ?」
「……なら僕以外に笑顔を振りまくのはやめて下さい」


独占欲は人間の三大欲求には数えられていないが、意外にも僕の中では大きなもののようで完璧に心を支配していた。


「あなたは僕だけの人ですから」


だからもう、。
ぎゅっと抱き締めた腕に力が籠もる。僕はいつからこうなってしまったんだろうか。



09.11.15
- ナノ -