main | ナノ





いってらっしゃい。
お帰りなさい。

あの日のお帰りは言えずじまい。


「ジェームズんとこ行ってくる」
「じゃあ私も行く」
「すぐ帰ってくるからなまえは待ってろ」


シリウスはキッチンでことこと煮えるかぼちゃのポタージュを見て言った。


「でも…」
「飯、冷めないうちに帰ってくるから」
「分かった、私シリウスが帰ってくるまで待ってるから」


イギリスでは男女が一緒に1つ屋根の下で暮らすのは珍しくなく、私たちもホグワーツを卒業してからは自然な
流れで今の家で暮らしている。いつも私とシリウスは一緒だった。それはずっと変わらない。


「リリーやジェームズによろしく伝えてね」
「あぁ」
「私もハリーに会いたかったなぁ」
「またすぐに会えるさ」


その時ふと、あるものを思い出しシリウスを玄関先に待たせ寝室に駆け上がった。目当てのものを掴むとまたバ
タバタと玄関先に舞い戻る。


「なんだよ」
「こ、これ!これリリーに渡して?」
「え?」
「ハリーの靴下を編んだの」


片手で収まるぐらいの小さな小さなオレンジ色の毛糸で出来た靴下をシリウスは笑いながらジャケットの中に仕
舞った。


「きっと喜ぶよリリーもハリーもジェームズも」
「ん」
「じゃあ行ってくる」


シリウスはそう言うと玄関の脇に停められている魔法の掛かった黒いオートバイに跨った。


「シリウス行ってらっしゃい」


ドルンッとエンジンが掛かった。こちらからは背中しか見えないが、聞こえたシリウスは右手を上げて合図した
。そしてシリウスは空を走って消えていった。
パタパタとエプロンを叩いて部屋へ戻ろうとした時、玄関にあるジャックオランタンに火が灯っていないことに
気付き、杖で火を灯した。
シリウスもきっと帰ってくる時に気付いてくれるだろう。


「シリウスが帰ってきたらどんな悪戯をしようかしら」


幸せで胸がいっぱいだった。シリウスが帰って来たらいっぱいハリーやリリー達の話を聞こう。そしてハロウィ
ンらしく悪戯をしてやろう。悪戯仕掛け人には学生時代色々と驚かされてばかりだったから久しぶりに私がシリ
ウスをあっと驚かせてやろう。そして私が作って冷やしているパンプキンタルトを一緒に食べよう。


なのにシリウスは帰って来なかった。



09.10.31
この世の悲劇は突然に。
- ナノ -