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もう時計は12時の消灯時間に近付いていて、そろそろ部屋に戻ろうかと考えていた。
ハロウィンでは寮関係なくみんなが楽しみ、僕の今朝沢山お菓子が詰まっていたポケットは既にぺしゃんこにな
っていた。
ふぅ、と大きな溜め息を吐いたときスリザリンの緑色の暗っぽい照明は真っ暗になった。


「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!」
「お菓子もなにも現在進行形で悪戯されていますが」


僕の視界を両の手で塞いだ人物に思い当たるのはこの人以外いない。


「なまえさん」


笑いながら現れた彼女の髪は軽く濡れていて、頬がピンクに染まっていた。
シャワーを浴びた後なのはすぐに見て取れた。


「そういう姿で出歩くのはどうかと思いますが」
「え?」
「いえ、なんでもないですっ」


カッと赤くなる頬を見せまいと僕は彼女から顔を背けた。


「あと残念ですがお菓子はもうありません」


ハロウィンももう終わる。そう思い、最後であろう相手に全てお菓子を差し出したからだ。


「お菓子ないの?」
「はい」
「なら悪戯していい?」
「今されましたが」


なまえさんはまた僕の視界を塞いだ。


「こんな風に?」
「はい」
「悪戯じゃないよ、これが悪戯」


ちゅっ聞こえたリップノイズの前の柔らかい感触に体がいっきに沸騰した。


「質の悪い悪戯ですね」
「ふふっ」


外された手に開放された視界は悪戯っぽい笑みを浮かべるなまえさんを捉えた。


「トリックオアトリート」
「え?」
「なまえさん、僕にお菓子を下さい。でないと悪戯しますよ?」
「あ…」


彼女が悪戯前提に現れたのは分かっていた。お菓子など持っていないのに聞くのは卑怯か、狡猾か。


「レギュラス?」
「なら悪戯、されて下さい」


とさっと彼女をソファに押し倒して、覆い被さってまた唇に触れた。


「ちょ、ちょっとレギュラス」
「悪戯です」
「え」
「おやすみなさいなまえさん」


このまま進めるのは紳士ではない。それにここは談話室だ。いくら日付が変わりそうで誰もいないとは言えスマ
ートではない。
僕はさっとソファから降り、自室に戻った。時計を見ると12を回っていた。

ハロウィンの魔法は解けた。



09.10.31
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