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英語の辞書2冊分ぐらいの分厚い本や他にも何冊か本を抱えて図書館に向かおうとしたらレギュラスと出会った。


「あ、レギュラス」
「こんにちは」
「うん、こんにちは」
「図書館に行くんですか?」


肯定を示すとレギュラスは僕もです、と言い私の隣を歩いた。


「先輩本好きなんですね」
「うん、勉強になるからね」


ホグワーツに入学する年、11の時に渡英した。ある程度かじっていた程度の英語じゃ本番のネイティブには到底叶わず最初はすごく苦労した。レギュラスが入学した頃には幾分かマシになっていたけれど。
レギュラスはそんなことなど露知らず、ちらりと私が抱えている本を見て、持ちましょうかと言った。


「ありがとう」
「いえ、先輩…」
「ん?」
「ビードルも勉強になりますか?」
「なっ!」


レギュラスは私の借りた本の中に吟遊詩人ビードルの物語を見付けて言ったようで、不意をつかれて焦った。


「僕も好きですよ、ビードル」


毛だらけ心臓の魔法戦士とかね、レギュラスはしれっと言い放ったが私は毛だらけ心臓の魔法戦士の終わり方を思い出し気分が落ち込んだ。


「レギュラスはあの話が好きなの?」
「ビードルの中では」
「趣味悪いよ」
「そうですかね?」


ふざけながらもレギュラスの心臓が魔法戦士と同じじゃないことを祈った。
ピタリとレギュラスの足が止まって、視線を上げると図書館の大きな扉と対面していた。レギュラスは私がいるのを確認すると、スルッと歩を進めた。


「え?」
「どうぞ」
「あ、ありがとう」


丁寧に大きな重い扉を開き、招き入れてくれた。私は素直にそれに甘えた。後ろを振り返ればレギュラスはまだ扉のところで、黄色いネクタイをした小柄な女の子を通していた。


「レギュラス?」


何しているの?というニュアンスを込めて尋ねた。


「イギリスでは次来る人の為に開けて待っているのは当たり前です」
「へー」
「知らなかったんですか?」
「う…」


自分の後ろに人が居れば扉を開けて待っていて後ろの人を先に通してから、自分が通る。初めて知ったイギリスのマナーに感心してるとレギュラスは小さく溜め息混じりに毒づいた。


「何年イギリスにいるんですか」
「しっ知らなかったんだもん、しょうがないじゃない」
「僕が教えてあげますよ」
「お願いします」


深く頭を下げたら、レギュラスは日本人らしいと笑った。



09.10.27
(09.10.28up)
英国紳士万歳!
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