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「…またポンポン跳びはねたりしないように。はい、めでたしめでたし」
「ビードルですか?」
「うん、魔法使いとポンポン跳ぶポット」


スリザリンの談話室で僕と先輩は鉢合わせた。僕の顔を見た途端先輩は僕の手を引いた。それはもう力強く。僕が問い掛ける言葉には生返事をし、引っ張られ気付けば湖近くに来ていた。


「で、何で絵本の読み聞かせを僕に?」
「いやーいい話だなぁって」
「知ってますよビードルぐらい、しかもそれは書き換え版でしょう?」
「書き換え版?」


先輩が大事そうに抱える吟遊詩人ビードルの物語を指差した。
湖畔は意外にも暖かく心地いい風が吹いている。だが、それがどうした。何で読み聞かせ?さっきの手を掴まれた時の僕のドキドキを返してくれ。


「先輩知らないんですか?ビードルには原書版があるんですよ」
「へー」
「教えてあげましょうか、本当はえげつない魔法使いとポンポン跳ぶポット」
「い、いらないよ」


先輩はぷるぷる頭を振ると、僕の肩に寄りかかった。


「えっ」
「何だか絵本読むと眠くなるよね」
「なりませんよ」
「私はなるの」


目の前にはなみなみとさざめく湖が広がる。僕の左隣にはなまえ先輩。確かに先輩の頭はちょこんと僕の肩に触れているが、痛くはないのだろうか。女性に比べると僕の肩は骨張っていて痛いのではないか。


「先輩」
「んー」
「肩痛くないですか」
「痛い」


この人は…。
いや、こうはっきりした所も嫌いじゃない。


「膝、貸してあげますよ」
「ん」


先輩はのっそりと体位を変換させ、僕の肩に触れていた頭を僕の膝に移した。


「かたい…」
「仕方がないじゃないですか、女性じゃないんですから」
「そっかー」
「少しだけ、ですから」


先輩が投げ出した吟遊詩人ビードルを手に取り、起こさないようにゆっくりと開いた。



09.10.26
木洩れ日にて読書(昼寝)
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