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「シリウス、貴方と踊ってあげる」


こいつぜってぇスリザリンだろ、おい組み分け帽子さんよ。俺は咄嗟にそう思った。さも当然と言わんばかりに目の前のなまえみょうじは言い放った。


「あー…頼んでねぇけど」
「どうせパートナー決まっていないのでしょう?」


パートナーが決まってないか、そう言われるとイエス。もちろん誰にも誘われなかったという不名誉なものではない。数え切れないほどの色んな寮の女の子に何度ダンスパーティーのパートナーに誘われたか。俺はその全てを断っていた。理由は適当に。参加したくない訳じゃないが、この子だっ!て子がいなくてずるずると今日まで来た。そんな中現れたのがなまえだ。


「じゃあ早速今晩練習しましょ」
「いや、まだ…」
「何?私じゃ不都合?」
「いや不都合っつうか…何で俺?」


まだパートナーが決まってないと嘆く男子は俺だけじゃなく他にも沢山いる。なのに何故?するとなまえはさらりと答えた。


「たまたま貴方を見かけたからよ」
「は?」
「別に、シリウスと踊りたい訳じゃないんだから!たまたまよ、たまたま」
「そ、そぅ」


厄介な女の子に引っ掛かった、そう素直に思った。でも不思議と嫌じゃなくてなまえみょうじという人間に興味が湧いた。


「で?キミはなまえみょうじと参加するんだ?」
「まあな」
「へー、あの高慢ちきなスリザリン生顔負けのなまえみょうじとねぇ」
「お前も十分高慢ちきだよ」
「何か言ったかい?」
「いいや」


ジェームズはニヤニヤしながら言った。確かに彼女はグリフィンドールにそぐわない性格で、一目置かれているのは周知の事実だった。高慢ちき、高飛車、時に狡猾そうといった類の話は聞くがその全てが本当かどうかは知らない。しかし彼女の美しさから恋心を寄せる物好きが意外と多いことは男子生徒の間じゃ有名だった。


「今晩から練習だとよ」
「スパルタだねー」
「仕方ねぇよ、何てったってあのなまえみょうじ様なんだからよ」


2人して笑った。
そして、その夜俺は1人指定された空き教室に向かった。どうせ短時間で終わるだろし、あまり気乗りしなかったのもあって俺はボタンが2、3外れたワイシャツにローブを羽織ったといった出で立ちだった。


「遅いじゃない」
「悪い」


空き教室には暖炉が設えてあり、オレンジの光だけが部屋を煌々と照らしていた。照らされて見えたなまえは意外にも、制服は着崩れておらず首もとまできっちりとボタンを閉められていて深紅のネクタイの赤々と輝いていた。なまえもグリフィンドールなのだと改めて認識した。


「さあ練習、始めるわよ」
「なぁ、何で練習?練習なんてしてる奴いねぇだろ」
「やるからには完璧でなくてはいけないの」
「完璧主義者?」


なまえは答えず、戸惑いもなく俺の手を取った。それがスマート過ぎて柄にもなくドキリとした。いやなまえの手が冷たくて驚いたのかもしれない。きっとそうだ。


「もっと寄れよ」
「ど、どこ触って…!」
「腰?」
「変なことをしたら貴方に呪いをかけるわ」
「おーこわっ」


キッと強く向けられた瞳に身体が疼いた。


「…なぁ、そう言えばお前と踊りたがってた奴見つけたんだけど」


これは嘘。鎌だ。


「そんな物好きいるのね」
「俺とチェンジする?」


途端にステップが止まって、俺はゆっくりとなまえを見た。身長差からかなまえの顔は俺の丁度首元辺りだったが、その表情は暖炉の明かりに照らされて窺うことが出来た。


「えっ、ちょ、泣くなよ」
「泣いてなんかいないわ!なんで貴方なんかに泣かなきゃいけないの」
「冗談だよ」


優しく頬を伝った涙を指で拭った。が、それはぱしんと渇いた音と共に中断される。


「気安く触らないで」
「素直じゃないな」
「うるさいっ」
「素直に俺と踊りたいって言えばいいのに」


俯いたまま俺のワイシャツを掴むなまえの手がいじらしくて、また胸が鳴った。パチパチと暖炉からの音のみで後は無音。


「…しょうがねぇな、こう言えばいいんだよ」
「え」
「私めと踊っていただけますか?」


今度は俺がスマートに跪いて、なまえの手を取って口付けた。
なまえの顔が赤く見えるのは暖炉の明かりのせいか、それではない何かなのか。



09.10.19
(09.10.25up)
ツンデレになってますか?
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