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学校の中はオレンジ色で溢れかえっていた。それはハロウィンというお祭りが明日に迫っているから。でも今年入学した私には文化の違いもあってか、ピンとこないままに過ごしていた。


「なまえ、あなた今日が何の日か知っているの?」
「今日はハロウィンでしょ」
「あら知っていたの?それならいいのだけど」


ベッドサイドに置かれてある、ルームメイトと一緒に作った不格好なジャックオランタンを見てそう答える。部屋の中のハロウィンの少し怖いような装飾にはもう慣れた。


「日本、にはない文化なのよね?」
「そうだね」
「まあ、とりあえずこれ持ってなさいよ」
「ありがとう」


ルームメイトが差し出した飴玉やらクッキーをポケットに詰めて、私はみんなよりも早く朝食をとりに大広間に向かった。いつもはあまり出会わないゴーストと廊下で何度もすれ違った。きっとゴーストもハロウィンが楽しくて浮かれているのだろう。


「よぅなまえ」
「あ、おはようシリウス」


不意に掛けられた声に少し驚いた。振り返ればシリウスが立っていた。シリウス達とは入学以来親しくしている。最初は日本という離れた島国から来た私が物珍しかったようだが、今はそういったこともなくみんな親切に接してくれている。大事な友人だ。


「なまえはハロウィンがどんなのか知ってるか?」
「え?お菓子をくれなきゃ悪戯するぞっていう…」
「なんだ知ってんじゃん!じゃあ改めて…」


シリウスは白い歯を見せて言った。トリックオアトリートと。私はそう聞くなりポケットからクッキーとチョコを取り出しシリウスに差し出した。


「え」
「なあに?お菓子だよ?」
「いや、持ってたんだな」


持っていた、とはお菓子のこと。シリウスは拍子抜けしたような顔で言った。きっと私がまだハロウィン自体よく分かってなくて、お菓子も持ってないと思ったのだろう。今朝ルームメイトから貰わなければきっとシリウスの悪戯にあっていただろう。


「ふふっ、シリウス残念でした」
「ちぇ、悪戯してやろうと思ったのに」
「え?どんな?」


シリウスは私の手からクッキーを掴み、手早く封を開けて口に放り込みながら言った。


「ん?そうだな」


もぐもぐさせながら言い、何か思案しているようだったがやがてクッキーを飲み込むとシリウスは唇をぺろっと舐めた。その仕草に少しドキリとした。シリウスはそのまま私との距離を縮めると私の頬に唇を押し付けた。これは外国の挨拶。知ってはいるけれども未だに慣れなくて何度となくやんわりと断っていたソレ。勿論免疫のない私の体温はみるみるうちに上がるのが手に取るように分かる。


「あ、赤くなった」
「な、なな」
「悪戯」


ペロリとシリウスは悪戯っこぽく舌を出して言った。
そしてお菓子貰ったけど、と付け足しシリウスは背中を見せて手をひらひらさせて視界から居なくなった。
私はただ頬に手を添えて立ち竦むばかり。


「シリウスのばか…」


私は赤い顔のまま再戦を誓った。



09.10.13
(09.10.17up)
happy Halloween…?
(君にいたずら!)提出
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