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冷たい雨がずっと絶え間なく降り続いていて。頬に張り付いた髪も悴んだ手も気にすらならなかった。ただずっと目の前の人物に視線を送ったまま。


「裏切り者」
「はい」
「行かせない」
「いいえ、通していただきます」


どこをどう間違えてこうなってしまったのだろう。2人はホグワーツの学生時代仲の良い同じ寮の先輩後輩であったはずだ。僕は先輩を慕っていた。寮生からの多大なる信頼、家柄、勉強だって秀でていたし何も劣ることはなかった。そんな輝かしい先輩は僕の憧れだ。先輩が死食い人になった時素直に喜んだし、僕も早くそうなりたいと願った。なのに。


「レギュラス正気に戻りなさい」
「僕は正気ですよ」
「闇の帝王に背くなんて馬鹿げてるわ」
「そうですね、なら僕はその馬鹿ですね」
「屁理屈を」


先輩は懐から杖を抜き僕に向けた。今の僕なら容易に先輩に武装解除の魔法がかけられるだろう。でもそうはせず、見つめ合ったまま。


「僕を殺しますか?」
「殺してでも止める」「あなたにそれが出来ますか?」
「うるさいっ!」


雨か涙か。頬を伝う水に心臓が締め付けられる。しかしここでこの計画を止める訳には行かない。ホークラックスに気付いたのは僕だけだ。


「レギュラス…」
「はい」
「私は、止めたのに、死食い人になることを」
「そうでしたね」


理想と現実は違うようで。先輩が卒業してから何度も何度も僕宛に手紙が届いた。僕はその時初めて先輩の弱い部分を知った。苦悩する姿。ホグワーツを懐かしく恋しがる姿。僕に会いたいとも。そして僕に死食い人になるなとも。


「忠告したというのに」
「そうでしたね」
「レギュラス…」
「僕を殺さないのですか」


先輩は何も言わずに杖を下ろし背を向けた。


「ありがとうございます」
「私が…殺せるわけないじゃない」


降りしきる雨に打たれながら僕も背を向けた。


「なまえさん、僕はあなたをお慕いしておりましたよ」


そして歩み始めた。後ろは振り返らないが、先輩はがいるのはわかった。

その後僕はしもべ妖精のクリーチャーを連れてホークラックスのある湖に向かい、命を落とした。
なので僕は先輩がその後同胞である死食い人に殺されることを知らない。僕を逃がしたからか、そうではない別の理由か。


願わくば来世でまた出会えることを。



09.10.14
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