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朝、まだ微睡みの中コツコツと窓から聞こえた音にあたしの安眠は妨害された。
あたし宛に届いた黒い手紙。宛名はあたし。送り主の名前はない。不気味も不気味。私は届けてくれた梟に餌も与えずに急いで着替え、談話室に向かった。後ろで梟が煩く飛び回っていたが、それどころじゃなかった。


「あ、丁度いいところに!」
「なんだか失礼だなぁ」
「まあまあ私とジェームズの仲じゃない」


珍しく談話室で1人のジェームズ。聞けばリーマスとピーターはまだ部屋に居るようで、シリウスについては所在不明。こんな朝から所在不明というのも気になったが、まずは不気味な手紙が先決だった。


「これ見てくれない?」
「何だいこの黒い手紙…なまえキミ何かした?」
「なっ何もしてない!」
「呪い掛かってたりして」


ジェームズはニヤニヤと笑い、そして摘むようにして黒い手紙を持った。
そして杖でつついて何か調べている様子だった。


「ねぇなまえ開けてみてよ」
「え!呪い掛かってたらどうすんのよ」
「見たとこ大丈夫だよ」


ジェームズは笑いながら言った。無責任な!とも思ったが渋々受け取り封を切る。中からはこれまた同じぐらい真っ黒な便箋が1枚。ゆっくり文字を追う。否、追うも何も文字は1行きり。ジェームズはあたしの反応もチラリと見てから便箋を奪った、そしてまた笑った。


「何だいこれは」
「悪戯かな」
「かもね」
「仕掛け人?」
「少なくとも僕は知らないね」


ジェームズはしれっと言い放った。本当に知らないのだろう。
そんな時、何も知らないであろうシリウスが肖像画をくぐり談話室にやってきた。


「お前ら何やってんの?」
「シリウス!いいところに」
「何だよ」
「なまえに愉快犯からラブレターが届いたのさ」


あたしの手にあった手紙はスルリと抜き取られシリウスの手に渡った。


「黄昏時に天文台に来て…か」
「この黒い手紙が怪しいだろ、まるで推理小説みたいだ!」
「…そうだな」


シャーロックは僕で、君はワトソンだ!とジェームズはわくわくした表情で言ったが、あたしはそれどころではなかった。
シリウスは丁寧に便箋を畳み封筒に仕舞うとあたしの額をその手紙でぴしゃりと叩いて返した。紙だから痛くはない。シリウスなりのスキンシップだ。


「で、なまえは行くのか?」
「え」


黒い封筒に黒い便箋、それに白いインクで書かれたあたしの名前と黄昏時に天文台に来て欲しいの文字。筆跡からしてなんとなく女性ぽさは感じられない。とすれば男。


「何か気味悪い」
「え?」
「あ、そうだ!シリウス付いてきてよ!いいでしょ?夕方まで時間あるし、喧嘩強いし」


果たし状じゃねぇだろ、とシリウスは突っ込んだがノーとは言わなかった。
その後朝食の為に大広間に向かった。
そして午前中は授業を受け、あたしはのんびりと談話室で午後を過ごしていた。断じてサボりではない。ただ選択授業の関係であたし1人だけが空き時間だったのだ。仕掛け人もいなければリリーもいない。1人というのは本当に退屈で最初あたしは本を読んでいたが、何時の間にかそのまま眠りに落ちてしまった。



「なまえ、あなた風邪引くわよ?」
「え?…リリー?」
「寝ぼけてるの?なまえ、大丈夫?もう夜よ、みんな夕食に行ったわ」


夜、の言葉に頭が一瞬で覚醒し窓の外を見た。
完全に黄昏時は過ぎて、もう夕闇で空は黒く染まっていた。見事に寝過ごした。


「リリー、先に大広間行ってて!」
「あなたは?」
「天文台!」


リリーが何かまだ行っていたが、あたしはもう走り出していた。長い長い廊下を走りながらシリウスに謝罪し。一緒に来てと頼んだのに張本人は寝てただなんて笑い者だ。今頃シリウスは夕食をがっついてるんだと思うと少し笑えた。天文台に続く螺旋階段は長くて、寝起きのあたしにはキツかった。息が切れて、やっとのことでドアノブに触れた。錆からかドアは甲高い悲鳴をあげて思わず震える。


「…よぅ」
「っシリ…ウス」
「わりぃ、ほらここ座れよ」


促されたままあたしはシリウスの隣に座った。頭の中が疑問符で溢れかえっていた。そして乱れた息を整えた。


「シリウスも来てくれたの?」
「いや?」
「え?」


シリウスは空を仰ぎ笑って言った。俺が出したんだよ、と。
つまり手紙を、シリウスがあたしに。

「なんでシリウスが手紙を?」
「なまえ、好きだ」「へ?」
「そう言おうと思ってた、だからなまえを呼び出したんだ」


お前がジェームズ達に見せるのは想定内だったけど、まさか談話室で寝ちまうのは想定外だった。シリウスはそうぼやいた。


「金色に光る夕焼けの中で告白するつもりが星空になっちまうなんてな」
「…ごめん」
「いや、これはこれでロマンチックだ。で、返事は?」


真剣なシリウスの瞳に射抜かれたようで、私は微動だに出来なかったしシリウスから顔を背けることも出来なかった。


「なまえ、俺と付き合ってくれないか?」
「あ、あ…」


なんて言えばいいのか分からなくて、ただただ頬に熱を感じた。
シリウスはそれを見たからか、自身の手をあたしの頬に当てた。ひやりとして気持ちよかったがそれ以上にどきどきした気持ちは大きさを増すばかりだった。


「無言は肯定ととるぜ?」


シリウスはそこまで言うと、そっと顔を近付けた。
触れた唇は意外に柔らかかったことと、心臓の音が大きかったこと以外は何も覚えていない。



09.10.10
ジェームズは黒い手紙と筆跡で気付いてるといいな。
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