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※そして誰も報われないの続きです。





それでも尚光を求める僕は愚か者か、罪人か。

昔から兄さんが持っている物は何でも欲しくなった。
兄さんと同じ玩具、兄さんと同じ本、兄さんと同じ羽ペン、兄さんと同じ箒、兄さんと同じ杖、兄さんと同じ兄さんと同じ兄さんと同じ。
でも全てが全て同じものを手に入れることは出来ないし、最初は笑っていた兄さんも徐々に僕のことを疎ましく思いそして煙たがった。


「みょうじ先輩、お久しぶりです」


なまえさんと呼んでいたことが遠い昔に思えた。恥ずかしくてなかなか呼べない僕を先輩は可愛らしく笑ったあの過去はもうない。

試験前の図書館は混雑していて、やっと見つけた1人分の席。その隣に先輩がいて思わず声を掛けた。気が付いたら声が出ていたのだ。


「レギュラス元気そうね」
「お陰様で」


上辺だけの社交辞令。
先輩はやはり痩せたような気がした。


「1年振りぐらいかな?」
「そうですね」


季節は一巡りして、あれから兄さんは人が変わったように女遊びが激しくなっていった。それに伴って悪い噂は絶えることがなかった。

しばらくして僕は部屋に戻ろうと本を閉じ、立ち上がろうとした時に次は僕が声を掛けられた。


「レギュラス、帰るの?」
「はい」
「なら少しいい?」
「はい」


そのまま何かを話す訳でもなく、2人で少しの距離を歩いた。着いた場所は湖で、丁度ぱしゃんと大イカが跳ねた。湖面はキラキラと眩しいぐらいに午後の陽光を反射していた。そして僕らは、湖に程近い木陰に腰を降ろした。


「みょうじ先輩…」
「それ…気にしているの?」
「え?」
「あのこと」


あのこと、そんなの聞かなくても分かりきってることだ。僕がプレゼントしたネックレスがきっかけで、いや僕が先輩に、兄さんの恋人に恋心を寄せたことをきっかけに起こったあのことを。


「そりゃ…」
「もういいのよ」


あんな小さい男だとは思わなかった、実の弟に手を上げるなんて。先輩は怒った風にそういうと、もう痛くもなんともないのにあの時デカデカとガーゼが貼られてあった僕の左頬に触れた。
ドキンと心臓が驚いて跳ねた。


「ごめんね、レギュラス」
「いえ、元はと言えばあれは僕が勝手にやったことですから」


また大イカが大きく跳ねた。その音以外は見事なまでの静けさ。


「みょうじ先輩、あの」
「もし、もしレギュラスさえ良ければまた名前で呼んで…ね?」


先輩は恥ずかしそうに目を伏せていたが確かにそう言った。この静けさで聞き間違うはずはなかった。


「はい、わかりましたなまえさん」
「うん、ありがとう」


それから少しずつではあるが徐々に1年の壁は取り払われていった。
なまえさんと会うことも話すことも多くなった。それと共に、1年前に強く封をして忘れてしまおうとしていた気持ちも多きくなっていった。
そんな時なまえさんの方から一緒にホグズミードに行かないかとお誘いが掛かった。本来なら女性を誘うことは僕の仕事だろう。なのに僕は時間ばかりを消費して何も言えなかった。それをなまえさんが見るに見かねてなのかは
分からないが。
もちろん返事はOKだ。


「お待たせして申し訳ありません」
「ううん、全然」
「あ、」


それ。
それとはなまえさんの首元で光るピンクのネックレス。1年前に僕がプレゼントしたものだ。


「さあレギュラス、行きましょう?」
「はい」


2人肩を並べて歩くことにドキドキした。今はもう関係ないというのに兄さんに鉢合わせしないかヒヤヒヤした。
2人で色々見て回った。楽しくて楽しくて時間が本当にあっという間に過ぎていった。夕方になってオレンジがホグズミードを覆う。帰る時間も近くなって。僕の足は自然と遅くなって、そして止まった。


「なまえさん」
「ん?」
「あの、いや何でもないです」


無理矢理に足を動かす。無理矢理に。なまえさんは笑いった。聞いていいのか、いや聞かない方がいいのか、言っていいのか、言わない方がいいのか。


「何でも言っていいんだよレギュラス」
「あの」


僕のこと好きですか?
何てことを言うんだ僕は。一気に夜が来たように真っ暗になった。先輩が好きだというならまだ分かるが、好きですか?だなんて。


「好きだよ」


なまえさんはポツリと、だけどちゃんと僕に届くように言った。


「え?」
「レギュラスのこと好きよ?」
「なん、で?」
「キライだったらこれ付けて来ない」


これ、と軽くネックレスを引っ張って見せた。ネックレスはオレンジに反射してぴかぴか光っている。そして僕は数歩先をを歩くなまえさんに今度はちゃんと問い掛ける。


「僕と付き合ってくれますか?」


なまえさんは綺麗な笑顔を浮かべて振り返った。



09.10.05
僕と鉄をも解かす熱い恋をしませんか?
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