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May I ask you out?
(デートに誘ってもいいですか?)


三年生以上で許可証にサインを貰えた生徒は、決められた休日ではあるがホグズミード村行きを許された。最初母上は許可証にサインをするのを渋ったが、勉学に勤しむこととブラック家の恥曝しのような行為をしないことを条件にサインしてくれた。ブラック家の恥曝しとは言わずもがな兄さんのことで、母上は元々ブラック家にはそんな人物は居なかったとばかりに振る舞った。兄さんも兄さんでそんな家のことを気に掛けてる様子はなかった。


「おい、レギュラスは今度どうするんだ?」
「行くよ?アーサーも行くんだろ」


ひょっこり現れたスリザリンのルームメイトに当たり前だと返事を返すと、アーサーは口ごもってから彼女と行くんだと恥ずかしそうに行った。僕だって誘いたい人は居る。でもその人は先輩で、沢山の友人に囲まれていて僕の入る隙間なんてこれっぽっちもない。誘っても断られるのが目に見えていた。だから言わないし言えない。そうぼんやり考えていると楽しそうな笑い声と数人の友人と共にその人は談話室に入ってきた。
そしてその人は事もあろうに僕を見付けると友人に断りをいれてから、こちらに向かってきた。残された友人達はみな女子寮の方へ行ってしまった。


「レギュラス」
「みょうじ先輩…何か御用ですか?」


もっと何か気の利いたことぐらい言えるだろうに、僕は自分で自分を呪った。


「レギュラスにこれあげるよ」
「何ですか?」
「アップルパイ」


差し出されたケーキボックスにはご丁寧にもカットされたアップルパイが1つ入っていた。先輩は僕のことをよく弟扱いする。そりゃ年齢が兄さん以上に離れているのだから仕方ないかもしれないが、僕は嫌だった。


「どうしてアップルパイを?」
「レギュラス好きでしょ」
「それはそうですけど」
「お土産だから大人しく受け取っときなさい」


みょうじ先輩は僕の頭を撫でた。それが子供扱いされているようで嫌でたまらなかった。だけどそれを振り払うことはない。


「そう言えばレギュラスはもうホグズミードに行けるんだっけ?」
「えぇお陰様で」
「じゃあ今年のハロウィンは期待出来るかな」


いっぱいお菓子を用意してね、みょうじ先輩はいたずらっ子のように笑った。


「先輩こそ用意しておいて下さいよ」
「んーレギュラスの為に今度悪戯専門店に行くかなぁ」
「なんで悪戯すること前提なんですか」


みょうじ先輩はまたおかしそうに笑った。


「せ、先輩はいつも誰とホグズミードに行くんですか?」
「いつも?いつもと変わらないよ」


キャシーでしょ、リゼッタでしょ、アロアでしょあとウィノナ…と先輩はいつも一緒にいる友人の名前を挙げた。


「特に決まりはないけど大体はみんなとかな」
「そうですか…」
「何?レギュラスも一緒に行きたい?」
「ち、違います!」


みんなと行きたい訳じゃない。先輩方はみんな優しく接してくれる。でも僕が行きたいのは。


「なまえ先輩、あの」
「ん?」


この人は名前で呼んだことに気付いてるのか、いや気付いていないだろう。ひたすら指先に視線を移している。


「僕と、2人でホグズミードに行きませんか?」


先輩は視線を指先から僕に移した。視線が絡まってドキドキした。


「いいよ、デートだね」


先輩は笑って頷いた。
さてどんな格好で出掛けよう?



09.09.24
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