main | ナノ





「汚ねぇ部屋…」
「うるっさいわね、出てけ!」




なまえの住んでる国が見たいんだ!シリウスのその願いを聞き入れて、我が家に招き入れた。折角招待したというのに、出てくるシリウスの悪態に大いにイラついた(確かに綺麗ではないけど汚くはない!断じて)
修了式が終わった後の夏休みはいつの間にか残り少なくなっていた。


「それに暑い、じとじとする」
「イギリスの夏とは違うの!仕方ないじゃない」
「なまえなんかねぇの?」
「お腹減ったの?」


お母さんがシリウスの為に腕を揮っているでいるであろうキッチンを思い浮かべた。
初めて2人を会わせた時、お母さんはとても喜んでいた(面食いだから)


「多分今お母さんがなんか作ってるよ」
「他には?」
「お菓子とか?あ、リーマスに貰った蛙チョコあるよ」
「…溶けてる」


床に転がったまんまのトランクをごそっと漁って、お目当てのチョコを見つけた。
見つけたというのに溶けてると、その一言でまたカチンときた。
シリウスはというとあたしのベッドに大の字に転がって、あたしの雑誌をパラパラと捲っている。その雑誌は去年帰ってきた時に買ったものだ。帰ってきた時ぐらいじゃないと日本のファッション雑誌は買えない。


「シリウスわがまま」
「うるへー」


シリウスの視線は雑誌にばかり注がれている。折角来たというのになんだか遣る瀬無い。


「そうだ!じゃあコンビニに行こう」
「コン、ビニ?」
「ほら前教えてあげたじゃん」
「そうだっけ?」


まだぶつぶつとシリウスはコンビニ、コンビニと復唱していたが、出掛けると分かると大きく伸びをしてベッドから離れた。あたしは財布だけを持って、部屋を出た。階段を下りるにつれて夕飯のいい匂いがする。


「いい匂いすんな」
「うん、お母さんシリウスが来るから張り切ってるんだよ」
「ところでコンビニってうまいのか?」
「ばか!コンビニはお店なの!」


あれはなんだ、これはなんだと興味津々なシリウスが離れてかないように手を握って家からそう遠くないコンビニを目指した。(もちろんちゃんと説明はしてあげる)


「なぁなまえあれは?」
「あれ?あぁ、あれは電車だよホグワーツ特急と一緒」
「全然違うじゃねーか、さすがの俺でも分かる」
「形は違っても元は一緒なの」


電車と列車、本当に合っているのか少し不確かな気持ちもあったが、シリウスはそれでも興味深げに見ていた。


「夕焼けの色は変わんねーな」
「うん、ホグワーツで見るのと一緒だね」
「それに空にふくろう飛んでねーのな」
「マグルの街だし、何よりここは日本だからね」


ダイアゴン横丁なんかに行くとよく空をふくろうが飛んでいる。大きな郵便局があるし、なにより多くの魔法使いや魔女が往来するからだろう。


「シリウス、ここだよ」


暗くなりつつある夕方でも眩しいコンビニの光に、シリウスはこれは魔法じゃねーんだよな?と再確認してきた。(なんかかわいい)
コンビニに足を踏み入れるとお決まりの入店音がした。それにシリウスがビクついたのが握った左手越しに分かった。


「シリウスあんまりきょろきょろしないでね」
「大丈夫だっつーの」
「ほんとに?」


そう言った後に、私は入り口近くの雑誌のコーナーに行った。
シリウスはというと平然を装っているのか、ゆっくりと店内を見回っていた。(少し不自然な気がしなくもないが)
パラパラと内容を確認し、いつも購入していた雑誌をかごに放り込んでシリウスを追った。


「何見てんの?」
「え、いやなんか色んなもんがあるなと…」
「まあ大体のものがコンビニで揃うからねー、なんか食べたいのあった?」


シリウスをお菓子のコーナーに誘導する。
ここまではよかった、ここから私は大変な思いをすることになる。



「なまえ、これは何だ?」
「え?これはチョコレートだよ、4種類の味があってね」
「ふーん、何味?」
「いちごと、カカオとバナナとパイナップルだよ」
「普通だな」


百味ビーンズなどの魔法界のお菓子と比べているのか、シリウスはそう聞いた後それを棚に戻した。


「じゃあこれは?」
「それはポテトチップスだね」
「ポテト、チップス?フィッシュアンドチップスみてぇな?」
「違うよ、えーっと…じゃがいもをスライスしたのを油で揚げてーそれで」


ずっとこれの繰り返しだった。
殆どがひらがなや、漢字やカタカナで表記されていてシリウスはその1つ1つを私に質問してきた。(華麗なる質問攻め!)
シリウスが商品の説明を求める、それを私が英語で事細かに伝えるというその作業は延々と続いた。


「結局これだけ…?」
「ん、多いか?」
「いいえ…」


かごの中には私の雑誌以外にはお菓子が2、3個にジュースが2本。
なのにコンビニの滞在時間は優に1時間は越えていた。


「コンビニって面白いのな」
「喜んでもらえてよかったです」


私はげっそりしたが、シリウスは満更ではないようだった。
会計をしている間、レジ横に置かれてあるホットスナックが目新しいのかシリウスはじっと見るもんだから、からあげを買ってあげた。シリウスはよほど嬉しかったのかにこにこしていた。(チキン!)
もう日本の夏のじめじめも気にしていないようだった。

また同じく入店音が聞こえたが、そのまま何事もなく店を出た。(シリウスはもう慣れたみたい)
そして行きと同じようにまた手を繋いで、行きよりもゆっくり歩いて帰った。


(お母さんに遅いと怒られたのは言うまでもない)




09.09.23
よくある話ではありますが。
- ナノ -