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兄さんの隣でキラキラ光るなまえさんは、きっと闇を知らない。
だからそんなにも輝いて眩しい。
そしてそんな眩しさに兄さんは惹かれ、なまえさんも兄さんに惹かれていった。
どこからどう見ても理想の恋人なのに恋心を抱くのは不毛だと分かっていたのに、僕は愚かだ。
昔から兄さんが羨ましかった。何でもそつなくこなせて、何でも手に入れて僕にないものを沢山手にしていた。光を手にしていた。ブラック家は代々スリザリンの家系なのにそれさえも覆して、なのに僕は…。


「レギュラス?」
「はい?」
「ハンカチ落としたわ」


声を掛けてくれたこと、何より名前を覚えていてくれたことが嬉しかった。


「ありがとうございますみょうじ先輩」
「貴方はシリウスと違ってとても礼儀正しいのね」
「いえ、そんなことは」
「みょうじ先輩だなんて畏まらなくてもいいのよ」


それから僕はなまえさんと呼ぶことになった。
最初は恥ずかしくてなかなか呼べなくてその度に先輩はくすくす笑って、無理にとは言わないけどと言った。


僕が三年の頃、なまえさんは丁度OWL試験であまり顔を合わせない時期があった。
それもその筈でほとんどの試験に該当する生徒は図書館や自室で勉強に明け暮れていた。
そんななまえさんに久し振りに会ったのは試験が丁度終わった頃だった。
中庭の噴水に腰掛けて復習だろうか本を開いていた。


「なまえさん!」
「レギュラス」
「OWL試験お疲れ様でした」


久し振りに見たなまえさんは少し痩せたようにも思えた。


「今日は兄さんと一緒じゃないんですか?」
「えぇ、相変わらず悪戯に明け暮れてるの」


他の生徒とは違い、兄さん達は試験中にも関わらず悪戯は毎日続いていた。
それでいて次席というのも僕にはない兄さんだけが持っている才能なのだろう。


「それでどうしたの?」
「あの、この間初めてホグズミードに行ったんです」
「初めて?」
「やっと母が許可証を書いてくれて」


そう言いながらもゴソッと鞄の中を探す。
小さな紙袋に入ったそれを。


「これなまえさんに…」
「どうして?」
「すごく似合いそうだったから…見つけて、それで」


かさっと音がして紙袋から出てきた花のモチーフが付いたネックレスになまえさんは驚いていたようだった。


「これ…いいの?」
「はい、是非貰って下さい」
「ありがとう、大事にするね」


なまえさんはそう言いつつ早速ネックレスを付けてくれた。
ピンクのネックレスは先輩にとても似合っていて、僕の見立ても悪くないなと自負した。


「そ、それじゃ失礼します」


恥ずかしさもあって、少し足早に中庭を去る。
軽く手を振ってくれるなまえさんに胸が温かくなった。
しかしその頬の赤みも胸の温かみも一瞬にして消え去る。


「レギュラス」
「兄さ、ん…」


僕の頬の赤みはすぐに青あざに変わった。
なまえさんのことを思うだけで胸は締め付けられる。

次の日、僕の左頬の大きなガーゼはスリザリンや他の寮生からも関心を集めた。
大広間ですれ違ったなまえさんの首元にあのネックレスはない。
次の日も次の日もそのまた次の日も。


まるで太陽に近付き過ぎて墜落したイカロスのようで、僕にあの人は眩し過ぎたのだとようやく気付いた。



09.09.20
その後、2人はこのことをきっかけに別れた。
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