スランプ


堺と世良

世良は絵を描くのが巧い。似顔絵はまるで写真で撮ったかの様にリアルだし。風景画もやっぱり写真の様に綺麗で見とれるくらいだ。
だけど最近世良は絵を描かなくなった。毎日毎日絵日記でも描いてるのかと思うくらい描き続けていたのに。今ではスケッチブックすら触ろうとしないし、いつも握ってた鉛筆はそこら辺に投げ捨てられたままになっている。
「世良、もう絵は描かないのか?」
「あー…そうっスね。」
「なんかあったのか?」
「んー」
あるような、ないようなと曖昧な返事しかしない世良はどこか元気がない。
「なぁ世良久しぶりに俺の似顔絵を描いてくれよ。」
「ぇ…?」
俺から絵のモデルを言い出すことは滅多にないから世良は鳩が豆鉄砲を食ったようになっている。
「え、あ、堺さん?」
「んだよ。」
「や、その珍しいですね。その、堺さんから描いてって、言ってくるなんて。」
「あー…。まぁ、たまにはな。ほら早くスケッチブックと鉛筆持てよ。」
俺がそう言うと世良はのそのそとスケッチブックを取り出して、鉛筆を拾い集めて、俺と向かい合わせる状態になった。
だが、世良は一向に描こうとはしない。
「…どうした?」
「いや、その、下手だったらすいません。」
「そんなことねぇよ。早く描いちまえ。」
「う…ウス。」
それ以降は俺と世良は何も話さずに、世良は集中して絵を描いていた。

「あの、堺さん」
世良は鉛筆を手から離してスケッチブックを両手に持っている。
「出来たのか?」
「…ウス。でもその下手くそなんであまり見せたくないっス。」
「下手くそじゃねぇよ、大丈夫だから見せてみろよ。」
渋々といった様に世良はスケッチブックを俺に渡してきた。
「…どこが下手なんだよ。充分巧いじゃねぇか。」
「えー…巧くないっスよ。最近は全く巧く描けなくてもやもやしてたんスよ。」
「…。」
なるほど、そういうことか。
こいつはいわゆるスランプとやらになってて描きたい絵も描けなくてもやもやしてたってことか。
「…ならいいんだよ。」
「え、堺さん何がっスか?」
なんでもねぇよ、そう言って世良の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。



(心配して損したじゃねぇか。)




世良が絵が巧かったらっていう俺得です。
無駄に長かった…

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