優しい締め付け


『し、らいしさん…?』

「もう少しこのまんまでおらして」


切ない声でそう言われたらもう何も言えない。
突然のことにまだ頭の整理が間に合わない。

心音が白石さんに聞こえてしまいそうで恥ずかしい。


だけど今はとりあえず白石さんが顔を上げるのを待つことにした。


「名前ちゃんは、今好きな奴おんの?」

首にかかる白石さんの吐息が妙にくすぐったく熱い。




『今は…正直よくわからないです』


ほんとにわからない。

好きって気持ちがわからない。

どの感情が好きって感情なのか。




「俺な、好きな子おんねん」


その言葉に心臓がひどく反応した。

好きな人、いたんだ。


『そう、だったんですか…』


自分でも驚くほど動揺していることを感じる。

白石さんの言葉の先を聞くのが怖くて、だけど気になって白石さんの口が開くのを待つ。


「全然会ってまだ日にちもそんなに経ってへんけど、会うたびにどんどん惹かれてくんや」


ポツリポツリ、と葉についた雫が零れ落ちるように途切れ途切れで話す。

私はただ白石さんの言葉を聞き入れる。


「その子の柔らかい笑顔とか見たらごっつ幸せになれんねん」


消して大きな声ではない、だけど迷いのない芯のある口調。










「今言うつもりとちゃうかったんに…」

『白石さん…?』

「…好きや」

『え…?』

「好き、ごっつ好き、自分でもブレーキ効かんほど好き」


今車内にいるのは二人だけ。
そうなればこの気持ちの相手は自然と私になる。

だけど、ここでもし勘違いだったらいけないので一応聞いてみた。


『それって…私、ですか』

「名前ちゃん以外に誰がおんねん」


その言葉にまたどきっとする。

今までいつも余裕があって大人な男の人だと思っていたから、こんなに感情を丸出しにしている白石さんは初めて見た。



『わ、私…』


どうしよう、何も心の準備とか出来てなかったからなにを言えばいいのか全然わかんない。

白石さんは戸惑う私を先程よりも少し力を入れて抱きしめてきた。



「名前ちゃんがちゃんと答え出るまで待っとくさかい、ゆっくりでええから考えといて」

『…はい』



頭が真っ白なままかすれた声で返事をするのがやっとだった。


密接しているからこそ伝わる白石さんの温度。
ふわりと香る白石さんの爽やかな匂い。
白石さんの全てが私の心拍数を上げていく。





どきどきするこの感覚を痛いとさえ感じた。

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