笑顔は無敵
静かに流れるBGMが穏やかな店内を更に心地の良いものにさせる。
今日もまたそんな喫茶店でせっせと働く。
さっき店長から休んでいいと言われたので休憩室で休ませてもらっている。
私が休憩室に行くと私以外にも先輩の中でもよく話すユキ先輩が一人椅子に座って休んでいた。
ユキ先輩はまだ入りたての私に色々優しく教えてくれたりしてすごくお世話になっている。
「最近あのイケメンくん、よう来るな」
それは白石さんのことだ。
あれだけの整った顔を持ったお客さんはそうそういないので仕事場でも結構話題になる人だった。
そのため、白石さんが喫茶店にやって来るとみんな少しそわつき「ごっつイケメンのお兄さん来たで」と奥で言っている人もいる。
『なんだかここのコーヒーが好きみたいです』
「あれ、名前ちゃんの彼氏とかやなかったん?」
『ち、ちがいますよっ』
何回目かのこの言葉。
この間一緒にご飯を食べに行った時に白石さんが店の前まで迎えに来たのを目撃した人がいらたしく、次にバイトに来た時には色んな人から質問攻めされた。
「なんや、仲良う喋っとるからてっきりできてんのかと思ったわ」
『ほんとにそういう関係じゃないんで…』
「実際は?」
少し口端を上げ顔を近付けてくる先輩。
『だからなんでもないです!』
「ほんまー?」
『ほんとです』
「ふーん」
なにか意味あり気な風にそう呟くと近付けていた体を離す。
ちょうどその時ドアが開きキッチンの人が少し顔を出した。
「ユキちゃん名前ちゃん入ってもらえる?」
助かった。
思わぬ助け船にホッと胸を撫で下ろした。
ホールに出るとユキ先輩がつんつんと肩を突いてきたので
「イケメンくんまた来とるで」
ユキ先輩が指差す方向へ目を向ければ他にはいない特有のミルクティー色の髪が見えた。
ちょうどそのときピンポーンと店内にベルが鳴り響き、そのベルは白石さんが座っているところからだった。
「はいおよびやで」
『…じゃあ行ってきます』
頑張って来い、なんて後ろからこっそり声が聞こえたけど別にそんな関係じゃない。
そんなことを言っても結局受け入れてもらえないんだろうけど。
『お待たせいたしました』
少しだけペコっと頭を下げ白石さんを見る。
ユキ先輩があんなこと言うから変に意識してしまう。
「名前ちゃんが来てくれたんや。なんや嬉しいな」
そんな私を知るはずもない白石さんは更に私を混乱させるような言葉を綺麗に笑いながら言う。
…やっぱり白石さんの笑顔は直視できない。
頭でそんなことを考えながら集中集中と自分自身に渇を入れ必死に注文を書いていった。