「ねぇ、君が欲しいんだけど」

『はい?』



突然何を言い出すんだこの男。

まともに喋ったこともない。

目の前の緩いウェーブに蒼髪の色白男。


「君を俺にくれないかな」

『お引き取り下さい』

「なんなら一日お持ち帰りとかでもいいんだけど」

『そんな商売やってません』

「そしたら君もきっと俺が欲しくなるよ」


その自信はどこから来るんですかお兄さん。

生まれながら美貌を持った人ってこうも自信が持てるものなのだろうか。


いや、多分ここまで自分に自信が持てる人はこの人くらいだろう。



『あたし早く家に帰りたいんで。あなたも早く部活に行ったらどうです?』

「今は部活よりも君との時間が大切だから」



今の言葉を幸村くんのファンの子が聞いたら鼻血ものなんだろうな。

残念ながらあたしはこれっぽちも興味がないから鼻血の以前に鳥肌がたつだけ。


「このままお姫様だっこして連れ去ることもできるんだけど」

『犯罪ですよ』

「君は俺の中に愛を生ませたという犯罪を犯したんだからお互い様だろ?」



意味がわからない。

言葉が通じないのはあたしだけ?

だけど、幸村くんは真面目なのか先程から真剣そのものの目をしている。



『…一応聞くけど、それは好きって意味でとっていいの?』

「もちろんだよ」

『それは人間的な意味で?それとも異性として?』

「人間的な意味も含めて君のことを愛してる」

『………どこらへんを好きになってくれたの?』

「きっかけなんてないよ。気付けば目で追ってる。恋ってそんなもんだろ?」



当然の様な顔をして言うから、幸村くんの言うことは全て正しいんだと誤りそうになる。



『あたしなんかと付き合っても得はないと思うけど』

「付き合うのに損得はないだろ?好きだから一緒にいる、それだけだよ」


どうしよう。幸村くんの言うことが正しいように思えて仕方ない。

この人の罠にハマったら大変だ。



『わかった。とりあえず付き合うことは出来ません』

「どうして?」

『付き合うにはまだ幸村くんのことを知らな過ぎるし、あたしはまだ幸村くんのことが好きじゃない』

「そうか。じゃあこれからすぐに俺のことを好きになるようにさせてあげるよ」

『自信だけは褒めてあげるよ』



幸村くんはふふっと笑ったかと思えばあたしの腕をぐいっと自分の方へ引っ張りそのまま唇を重ねた。


あまりの突然のことに頭がついていかない。






「手加減はしないよ」



あたしはこの時からこの男には敵わないとうすうす気付いていた。

蒼髪の宣戦布告