『あ、あっぁあ…』


部屋中に響く水音、ぶつかり合う肌の音、淫らな自分の喘ぎ声。

さっきの光景を消すかのように快感に溺れていく。


学校を出て家に帰る途中で、明日提出しなければいけない課題を忘れたのに気付いた。
いつもなら取りに帰らないくせに、なぜか今日は学校へと勝手に身体が引き返した。

自分の教室のドアを開けようとドアノブに手を掛けた瞬間に気がついた。


誰か教室にいる…?


しかも聞こえてくるのは女特有のヤってる最中の甘く高い喘ぎ声。
別に他人の行為を見たかったわけじゃないけど、興味本位で少しだけドアの外から中を覗いてみた。

その瞬間身体が凍りついた。



「蔵、くっらああ…イっちゃうイっちゃ、うう…!」

「イきや」



密かにずっと心の中で想っていた大好きな人が知らない女と身体を合わせている。
こちら向きで机に手をついてバックで射れられている姿がはっきりとあたしの瞳に映し出された。


あたしの知っていた普段の白石くんは誠実で真面目で誰に対しても優しい人。

今あの女のバックで妖艶な笑みを浮かべ激しく腰を振っている男は誰…?


気付けばそこから走り去って謙也の家に来ていた。


謙也はあたしの様子を見るなりすぐに部屋に連れていき、ベッドに押し倒した。
何もいわずに重ねられた唇。
気付かないうちに溢れだしていた涙を拭う紅い舌。


そこからは本能的にお互いを求め合った。
謙也と身体を重ねるのは今日が初めてではない。

元々セフレで白石くんのことを好きだと気付いてからは縁を切った。
それなのに、あたしはまたこうして同じことを繰り返している。


自分で自分での馬鹿な行動に呆れる。
だけどこうするしかなかった。
こうでもしなければ、あたしは嫉妬や不安や怒りや悲しみの混ざったわけのわからないぐちゃぐちゃな感情に押し潰されてしまう。



眼を閉じて謙也からの快感に浸ろうとすれば浮かび上がる先程の情景。

全然消えてくれない脳裏に焼き付いたあの二人。




『、けんやぁあ…あはぁっあ……け、んや…』

「名前、もう泣くんは辛ない?」


上から聞こえた謙也の声は、今までに聞いたことのないくらい切なく悲しみが込められていた。
その声に涙が一筋、また一筋と流れていく。


「白石やないとあかんの?」

『あ、あ、っぁあ…謙也…っやぁ…』

「俺じゃあかんの…?」



なんで?

なんでそないなこと言うん?

意味わからん。

あたしらただのセフレやったんちゃうん?





「俺は、お前のことセフレとして見たことなんか一度もないわ」

『け、っんやああ…あっか、あかんあかん…っ…』

「ずっと、ずっとずっとお前だけ見てきたんや」

『そこは…っぁああ!…ああん、イっく…あか、ん…イくイく…っ』

「…俺の女になってや」



伸ばした手を掴んだのは骨張ったマメだらけの優しく温かい手。


指を絡ませ合い、深くキスをする。




自ら舌を絡めせた。
初めて自分から絡ませた。


謙也もそのことに驚いたが、すぐに私に応えるように舌を突き出す。



今日のあたし、おかしいわ。

なんでこないに謙也のこと求めとるん?





中身の空っぽなセックスは今日はどこにもなかった。


心がいつもよりも満たされていく感覚に、また涙が零れた。

新しい道