今日も隣の苗字さんを見とったら、いつの間にか午前中の授業の終わりを表すチャイムが鳴っとった。 そのチャイムを聞き黒板の前に立つ先生は教室から出て行く。 そういえば今日ブンちゃんは昼用事があるって言っとったな。 「のう苗字さん」 『ん?』 「昼一緒に食べんか?」 『うん、いいよ』 苗字さんの返事に喜びを隠せず顔が緩む。 弁当を食べるのに屋上に移動しそこはいつもの様に誰もいない。 二人だけの場所がそこにはあった。 苗字さんが告白を断ったと知った日から俺は自分でも行動が大胆になったと思う。 それはやっぱり苗字さんと少しでも一緒にいたいっていう理由。 だけどそれだけではなくて。 苗字さんを独占したいって気持ちが強くなったというのも事実。 前までは好きには変わりなかったが、見ているだけで幸せな気持ちになれた。 心が満たされとった。 だが今はそれだけでは満足できずにその先を願う俺がおる。 これが前と今の俺の気持ちの最大の違い。 『銀髪くん、食べないの?』 一緒に食べようと俺から誘ったのに、一向に食べる気配を見せない俺を少し不思議に思ったのか首を傾げながら尋ねてくる。 「食べるナリ」 いつもと同じ朝コンビニで買ったパンの袋を開ける。 そろそろこのパンにも飽きてきたころ。 対して苗字さんの手の中にある弁当は、色とりどりでいかにも食欲をわかせそうな弁当。 黄色い卵焼きなんかツヤツヤと光沢を放っとる。 美味そうじゃの…。 『食べる?』 「え?」 『見てたから』 これ、と言って差し出してきたものは紛れもなく俺が見とった卵焼き。 「ええんか…?」 『うん。まだ卵焼きあるし』 「苗字さんありがと」 でも、どうすればええかの。 そういえば俺はパン=箸は生憎持っとらん。 普通に部活だったら手でもらうとこじゃが、苗字さんの前でやったら失礼じゃ。 頭を抱え悩んでいると『はい』と声が聞こえた。 その“はい”の意味がわからんかった俺は顔を上げ苗字さんを見る。 すると、苗字さんは箸で卵焼きを持ち俺に向けとった。 ………これは、そう捉えてもええんじゃろうか? 『箸、ないでしょ?』 だからはい。 そう言って差し出してくれる苗字さん。 この光景が嬉しすぎて涙腺が緩みだす。 目頭が熱くなる。 苗字さんとこんなにも早くあーん体験ができるなんて…! 幸せを噛み締めながら、苗字さんが差し出してくれた卵焼きを口に入れる。 口の中に入れた瞬間卵の味が広がった。 苗字さんは薄味派なのかあまり調味料らしき味はしなかった。 だけど、俺を満足させるには十分なものであって。 卵焼きが大好物!というわけではない。 あれじゃ。 好きな子からのものじゃったら何でも美味く感じるもんぜよ。 しかもこのシチュエーション。 最高じゃろ。 「極上まいう!」 『それはよかったよかった』 「これ苗字さんが作ったんか?」 『うん。お弁当はいっつも私が作ってるの』 さすが苗字さんじゃ! 料理も天下一品ぜよ。 『ウインナーもあげる』 「けど、苗字さんが食べれんくなる」 『いいの。銀髪くんが褒めてくれたから、嬉しい』 そう言うとにこっと笑った。 キュン死。 眩暈がする。 今のは反則ぜよ。 不意打ちな笑顔。 ああーだめじゃ。 可愛すぎて今なら宇宙まで吹っ飛べそう。 『ウインナーいらない?』 「食べるナリ!」 『お腹空いてたんだね』 違うぜよ、という言葉は今は必死に飲み込んだ。 その代わりにもならないが頷いておいた。 まーくんと君と時々太陽 《他にもなにか欲しい?》 《あーんしてもらえるならなんでもいいぜよ》 |