「あ、ああ上がってくれんしゃい…」 そのまま固まること数分。 どうにか意識を戻した俺は苗字さんを家に上がらせた。 あのまま玄関っていうのは苗字さんに失礼極まりないと思ったから。 何度か『ここでいいよ』と断られたが、俺のしつこさが勝利した。 『ごめんね、気を遣わせて』 「そんなことないナリ…」 心臓がバクバクいっとる。 顔に熱が集中する。 緊張のあまり苗字さんと向き合った状態で正座をしてしまう。 その光景はまるで母親に叱られとる小学生そのもの。 『今日は銀髪くん学校休んだから、先生に隣の私がこれ届けてくれって頼まれて』 差し出されたものは学校が配布するプリントだった。 『あと、私からの差し入れ』 もう片方の手で持っていたビニール袋を差し出される。 中身はスポーツドリンクと飲むゼリーだった。 『その様子じゃなにも食べてなかった?』 俺の姿を見るなりそう尋ねてくる。 改めて自分の格好を見てみた。 パジャマ代わりの無地のTシャツにジャージ。 なにも触っていない寝起きのままのボサボサな頭。 最悪じゃ…。 こんな姿見られるなら死んだ方がマシじゃ…。 今すぐにでも朝の自分に苗字さんが来るけ準備しんしゃい!と伝えに行きたい。 「…おん」 『そっか。相当辛かったんだね』 心配そうに言う苗字さんの言葉に罪悪感が募る。 好きな子になに心配させとんじゃ。 しかも嘘を吐いとるのに。 …そういえば、昨日結局なんて返事したんじゃろ。 今聞くしかないナリ。 まーくん勇気を出すんじゃ! 「のう、苗字さん」 『ん?』 「その…、昨日、のことなんじゃが、…」 あともう一声なのにいざ口に出そうとすると躊躇ってしまう。 「昨日、のことなんじゃが…」 『うん』 自分はこんなにヘタレだったのかと初めて思い知らされる。 でも、そんな自分の言葉をじっと待ってくれている苗字さん。 ここで言わんと男じゃないぜよ。 「昨日のこ、…こく、はく…」 片言ながらやっと口から出た“告白”ワード。 そのワードで理解してくれたのか、苗字さんは少し眉を下げて笑った。 『ああー…見られちゃってたか』 「返事、なん…て言った、ん…?」 恐る恐る聞いてみる。 OKというワードが出ないことだけを祈り続ける。 『あれね、断ったよ』 「え…?」 『すごく嬉しかったけど、やっぱり自分が本当に好きになった人と付き合いたいから』 その言葉を聞き肩の重みがなくなり、一気に脱力してしまった。 俺の明日への希望が見えた。 また明日から絶賛片想いの日々に戻れるぜよ…! 命の復活に乾杯 《そういえば、ここまでどうやって来たん?》 《丸井くんが「天才的な地図だぜ」って渡してくれたの》 |