手に滲む汗を隠すように拳をぎゅっと握りしめる。 今は帰りのSHR中。 隣にいる苗字さんを意識し過ぎたせいか今日は全く一日中授業が頭に入って来なかった。 ハートビートがやばいぜよ! 踊り狂っとる! テンポ早過ぎてここで死にそうじゃ。 でも、それはそれで最高に幸せな死に方じゃのう。 隣を見れば姿勢良く教壇に立つ担任の話を聞いている苗字さんの姿。 今日もこれ以上にない目の保養。 もはや目の栄養。いや、目の極上サプリメントじゃな。 俺の視線に気づいたのか、少し目を見開きすぐににっこりと笑った。 か、可愛いいいい! 俺をどうするつもりじゃ苗字さん…! 心臓が爆発するかと思ったぜよ…。 なぜか今日のSHRに限って異常に長い気がした。 その時間中ずっと異常なまでの働きを見せた俺の心臓の気持ちになってみんしゃい、担任。 『銀髪くん、帰ろ』 「おん!おん!!」 教室を出るタイミングがブンちゃんと丁度ダブり、ブンちゃんは俺たちを見て「ふ〜ん」と意味あり気にニヤついた。 『丸井くんも今日は直帰?』 「まあな。滅多にこんな日ねえから、今日くらいチビたちといっぱい遊んでやんねえと」 『あ、そっか!弟さんがいるんだっけ?じゃあ丸井くんも一緒に帰る?』 な、なにい?! いかん!いかんいかんいかん!! そうはさせるか! せっかく初めての苗字さんとの下校を、何が楽しくていっつもガムばっかり食べとる奴も入れんといけんのんじゃ! 俺は苗字さんの後ろにいることをいいことに、ブンちゃんをこれでもかというくらい睨みつけた。 睨みつけるのに目力を遣い過ぎて正直目が痛い…が、そんなことは言っとられん! ブンちゃんは俺の表情に気が付くと「あ…」と言って苦笑いを浮かべた。 「…今日はやめとくわ。せっかくなんだし二人で帰れよ」 「ほお。悪いのブンちゃん」 ブンちゃんの言葉を聞き安心した俺はすかさず満面の笑みを浮かべた。 俺の顔を見てブンちゃんは舌が千切れるんじゃないかと思うほどでかい舌打ちをした。 『そっか。ん、じゃあまた明日ね』 「おう、またな」 そこでようやくブンちゃんと別れ、待ちに待った二人の下校。 いつもだったらクラスの連中のやかましさで誤魔化されていた沈黙も、二人きりになった今はもろにお互いの空気が伝わってくる。 だけど不思議と沈黙が苦にならなかった。 それはきっと苗字さんが持っている空気のおかげだと思う。 苗字さんはいつもと少し違ったやんわりとした笑みを浮かべて前を向いたまま口を開いた。 『なんか緊張するね』 「…苗字よりも俺の方がずっと緊張しとると思う」 『ほんと?私もすごく緊張してるよ。彼氏出来るのとか初めてだし、こうやって男の子と二人きりで帰るのも初めて』 “彼氏”というワードに異常に耳が惹かれた。 くすぐったさを通り過ぎて胸がぎゅんぎゅんと痛い。 「苗字さん、彼氏初めてなんか…?」 『そうだよ?今までこんな風に誰かを想ったことなかったから。銀髪くんが初めて』 少し照れたように笑い、今まで前に向けていた視線を俺に向けた。 そんな苗字さんの表情にやられ、いろんな欲求が俺の中をかけずり回る。 手を握りたい 抱きしめたい キスしたい セック………言ったら終わりな気がするのう。 「俺も誰かを好きになるのは初めてじゃ。…ほんまに苗字さんが好き」 『ん、私も銀髪くんが好き』 誰もいない道通り。 夕日に照らされた二つの影が一つに重なろうとした。 「お!仁王先輩じゃないっスか!」 ……くそワカメ。 愛の炎で燃やしてやる 《…その頭、もっとチリチリしちゃろうか?》 《へ?何のことっスか?》 |