今俺は教室の前に立っとる。 入りたくて仕方ないのに、体は前に進んでくれない。 苗字さんにどんな顔したらええんじゃろうか。 今までとはちがう関係。 そうなった今俺は苗字さんの前にどういう態度でいればいいのかわからず、さっきから何度もドアを開けようと窪みに手をかけるが離す、その繰り返し。 そしてうろうろとドアの前をうろつく。 そうしている内にチャイムが鳴り覚悟を決めて教室に入った。 入った瞬間浴びる注目。 だけどクラスの奴の視線なんかどうでもいい。 苗字さんは? 苗字さんは俺を見ているのだろうか。 『あ、銀髪くん。おはよう』 「お、おは、よう…」 あれ…? おかしいナリ。 苗字さん普段と何ら変わりないぜよ。 これだけ意識しとるのは俺だけか? 『銀髪くん、今日数学のテストあるの覚えてる?』 「数学の…?ああ、そういえばそんなことも言っとった気も……」 あ、完全に忘れとった。 無理もない。 それは、ちょうど昨日の苗字さんと結ばれた時の授業だったから。 昨日の俺はそれどころじゃなかったんじゃ。 今の俺もそんな数学のテストどころじゃないきに。 『忘れてたんだね』 そう言って『ふふ』と笑みを溢す。 その瞬間顔に集まる熱。 か、可愛い…。 なんじゃその可愛さは…! 反則過ぎるナリ! もうレッド越して激ピンクカードじゃ! 今すぐに抱きしめたい衝動に駆られ抱きつこうとした瞬間、ブンちゃんが俺のところにやってきた。 「なあ」 「……なんじゃ」 「機嫌わりいな」 「当たり前じゃ。ブンちゃんのアホ」 「は?誰が恋のキューピットだったと思ってんだよ」 「ブンちゃん天才」 「だろぃ?」 おーおー、ブンちゃんは天才じゃ天才。 天才過ぎてもうわけわからん。 だからどっか行きんしゃい。 「意味わかんねーし。幸村くんから伝言、今日部活ないってよ」 「なんで?」 「なんか今日コートが使えねえらしい」 「ほーお」 ん?待ちんしゃい。 ということは、真っ直ぐ家に帰れるということ。 ということはイコール帰宅生と一緒の時間に帰れるということ。 ということは更にイコール苗字さんと一緒に帰れるということ。 おおお!!! 「苗字さん!」 『うん?』 「き、きょ今日なんじゃが…いいいい…」 「(なんだよこのヘタレ…)」 『うん』 「い、っしょに…帰れん…?」 真っ赤な顔を手で顔を伏せながら小さく呟いた。 恥ずかし過ぎる、なんじゃこれ。 『うん、一緒に帰ろ』 その言葉を聞いて俺は気付けば苗字さんを抱き締めとった。 苗字さんは俺の腕の中で笑いながら『銀髪くんと帰るの初めてだねー』と言っていた。 ブンちゃんのことはもう視界に入っとらんかったけ、ようわからん。 「ゴ、ゴホンッ…仁王、SHRが始められないんだが…」 いつの間にか数学教師改め担任が教卓の前に立って赤面していた。 デジャヴったナリ 《またおまんか…!!》 《仁王、それは先生のセリフだ》 |