無口な付き合い
今日も学校へ行きいつもと変わらない授業を受けながら時間が過ぎていく。
白石先輩と会うことは滅多にない。
たまに見ると言っても廊下ですれ違うだけ。
私はもちろん気付いているけど、白石先輩だと思えば嬉しさを通り過ぎて恥ずかしい感情に襲われる。
気付いてほしいけど気付かれたくない。
結果気付けばすぐに顔を伏せてしまい自分から白石先輩に気付かれないようにしている。
そんなことしなくてもきっと白石先輩には気付かれていないんだろうけど。
今日は日直当番だったので休憩時間になれば黒板を消したり先生の雑用を受けたりしていた。
帰り際、怜ちゃんと一緒に帰ろうとすれば担任の先生に引き止められまたもや雑用を頼まれた。
別に急ぐ用事もなかったので怜ちゃんに先に帰ってもらい私は職員室へと向かった。
「堪忍なあ苗字。ほんまはこれ今日何人かに分けてやってもらうようしとったんやけど、思いっきり忘れてもうて」
『大丈夫です』
「これ明日のLHRで使う資料やさかい、今日中にどうしても仕上げんとあかんのや、すまんけど頼むわ」
終わったらそのまんま教卓置いとってくれたらええから、と付け足したのを聞いて大量をプリントを抱えて職員室を出た。
部活生はまだ活動している真っ最中だけど、帰宅生は学校が終わると同時にすぐに帰るから校舎にはほとんどもう人はいない。
大量のプリントを机の上に置いて腕を真上に伸ばす。
『んー…』
そして息を思いっきり吐く。
よし、やろう。
プリントは何十種類かあって、それを一枚ずつ取りホッチキスで止めるという作業。
これをクラスメート全員分作らないといけない。
黙々とやり始めてさすがに肩も凝ってきて精神的にも中々辛くなってきた頃。
時計に目をやればさっきまで4時を少し過ぎたくらいだったのに、時計の針はもう6時を過ぎていた。
外を見ればいつの間にか日も暮れかかっている。
もうこんなに時間が経ってたんだ。
だけど、まだまだ終わりそうにない。
ようやく半分は作れたけど、まだ先が見えないなあ…。
はあーと溜息をついてまた作業にかかろうとした時。
ガラガラ
教室のドアを開ける音がした。
あれ、まだ誰かいたんだ。
「………なんやまだおったん」
『あ………うん』
低い声でぼそっと呟く彼は今席が隣の財前くん。
隣と言ってもあまり話したことないし、財前くんは授業中は携帯をしているか寝ているか。
お互いおしゃべりでもないから話題を振ることもない。
彼は私を少し見ればすぐに視線を変えて自分のロッカーを開く。
教室内に二人いるのにどちらも口を開かないから沈黙は続く。
唯一の救いはお互いすることがあったのでそっちに集中を向けることで、別に口を開かなくても不自然には見えないこと。
静かに作業をしていたらがたっと音をたてて椅子を引き、目の前に財前くんが座った。
さすがに突然目の前に来たからびっくりしてつい財前くんを見つめてしまった。
「これ一枚ずつ取ってって、ホッチキスで止めればええん?」
『あ、えっと…うん』
すると財前くんも黙々と作業を始め出した。
え、どういうこと?
どうして財前くんもするの?
『あの…』
「なん」
『どうして…その、財前くん……やってるの?』
「俺も今日日直やさかい」
あ、そうか。
日直って一人じゃないのか。
「…すまん」
『え?』
「忘れとったわ」
『…なにを?』
「…せやから、日直。自分今日全部一人でやったんやろ?」
『あ…うん』
「これくらいせんとあかんやろ」
意外だった。
義理と取るべきか人情と取るべきかわからない財前くんの行動だったけど、とりあえず一緒にしてもらって助かった。
黙々と作業する中で聞こえてくるのは時計の針の音だけで、その音がなんだかだんだんと心地よく感じてきた。