手を伸ばしても


お昼も終わり6時間目は体育だったので、着替えてグラウンドに出た。



「名前行くでえー」

『うん、いいよー』


怜ちゃんが蹴ったボールは見事に綺麗に宙を浮いて私の元へとんで来た。
だけど、あまりのスピードの速さに驚きつい反射的に避けてしまった。

私が避けたことによって奥の方へボールはとんで行く。


「堪忍、いつもの調子でやってもうたわ」

『あはは、いいよ。ちょっと取ってくるね』


運動神経が良い怜ちゃんに対して、私は正反対でお世辞でも運動神経が良いとは言えない感じ。

ボールは思ったよりもとんで行ってしまったみたいで気付けば知らない男の人ばかりの所へ来ていた。

見たこともないような顔ばかりの中、私の視点は一点に集まった。


白石先輩だ。


って言うことは一つ上のクラスの人たちか。


ボールを取りに行こうとするものの、ちょうどボールは先輩たちの中央にあった。

しかも先輩たちはバスケットの試合の最中で誰もボールを見向きもしない。


こんな中で私が中に入って行ける訳もなくどうしよう、と戸惑うばかりだった。






「苗字さん」


頭上から降ってきた声に顔を上げた。


『白石…先輩』


白石先輩がわたしの名前を呼んでいる。

そのことが妙にくすぐったくて嬉しくもあり恥ずかしくもあった。


白石先輩は特に気にした様子もなくサッカーボールを差し出す。


「これ、取りに来たんやろ?」

『あ、はい。…ありがとうございました』

「ん」


白石先輩からボールを受け取ると慌ててその場から去った。


話しちゃった…。

小学校の時以来初めて話した。

相変わらず優しそうで人に悪い印象を与えない爽やかな笑顔だった。



白石先輩と話せたことで静かに心が舞い上がっていた。


「なあ名前ってさ」

『うん?』

「白石先輩のこと好きやろ?」



ボールを取りに戻って真っ先に言われた言葉。

驚きのあまり思わずボールが手からすり抜けた。


怜ちゃんはそれを肯定と読んだのか「そうかそうか」と言って私の頭をポンポンと叩いた。

やっぱり怜ちゃんにはお見通しだったのか。


「あの先輩ごっつモテるで?」

『…うん。別に告白するつもりはないの』

「どないして?」

『私は遠くで見ておくだけでいいから』

「ふーん。なんや、勿体ないなあ」


まあでも、名前がそう言うんやったらしゃあないな、と言い再び私の腕の中にあったボールを掴み足でコロコロと転がし始めた。




白石先輩のことは好き、だけど告白はしない。

遠くで見ておくだけで私は十分だから。







これは単なる逃げなのかもしれない。

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