時を経て


お昼時間。


クラスの女の子は机を並べそれぞれのグループの子とおしゃべりを楽しむ。
男の子は大勢で騒ぎなにかあれば大笑いする。


その光景を少し離れた場所で眺める私。

いつもの光景。
いつもの私。


「あ、謙也からや」

隣でお弁当を食べている怜ちゃんが呟いた。
出てきた名前は怜ちゃんの彼氏さん。

何ヶ月か前に忍足先輩から告白された怜ちゃんは初めは断っていたものの、何度も熱烈的なアピールをされたのでその真っ直ぐさに折れ付き合い始めた。


「“今からそっち行くわ”って」

『きっと忍足先輩だから来るの早いだろうね』

「あいつの速さ異常やさかい」


そんなことを話していればまだメールを見て1分も経っていないのに、ドアをガラッと開けた音が聞こえた。


「怜ー来たでえー!」

「早…」

『さすがだね』



あの有名なテニス部レギュラーの忍足先輩が2年生の教室に来たことでクラス中がざわめき出す。


よくテニス部のレギュラーと付き合い始めれば裏でファンクラブの子が動く、という噂が流れているけど怜ちゃんは付き合い始めて今まで何かされたということが一度もない。



なぜかというはっきりした理由はわからないけど、多分怜ちゃんの媚びない人柄をみんなが好いているからだと思う。


特に自分から積極的に動かないのに怜ちゃんは人脈がすごい。
派手な子から大人しい子まで色んな人と仲が良い。
どんな子に対しても接する態度が変わらない、そんな怜ちゃんを私は尊敬すらする。



私はというと、社交的ではないしタイプで言ったら完璧に大人しい部類に入る。
そんな正反対の私と怜ちゃんが一緒にいることを初めは誰もが疑問を持った。
私からしても疑問だった。

新学期になり全然知り合いがいなかった私に怜ちゃんから話しかけてくれた時はびっくりした。

だけど怜ちゃんの飾り気のない性格に私も素の自分でいることができた。
今では休日は怜ちゃんと過ごすことが多くなっているほどに仲良くなった。


「名前」

廊下で忍足先輩と話している怜ちゃんが私の名を呼び手招きする。
話してるのに行ってもいいのかな、と少し戸惑ったものの呼ばれたから素直に怜ちゃんの元へ行く。


「名前ちゃんこんにちは」

『あ、こんにちは』


忍足先輩は私を見るなり人懐っこい顔で笑うから私もつられて笑う。

怜ちゃんを通して私も何度か忍足先輩と話したことがあった。
すごく明るい人で壁を感じさせないような感じの人だった。


「ついでやから紹介しとくわ」

私の立ち位置からは死角で見えなかったけど忍足先輩の隣にはもう一人男の人がいた。


「白石蔵ノ介や。まあ、ええ奴やさかい仲良うしたってや」


ミルクティー色の髪。

少し困った顔をしながら笑う横顔。



男の人を見た瞬間心臓が跳ねた。



「なんやねんついでって」

「一緒におったんやから一応紹介した方がええやろ?」




―白石蔵ノ介―

その名をしっかり心に刻む。








ずっと、ずっと想っていたあなたが今私の目の前にいる。

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