180度からの案


朝の幸せな時間はあっという間に過ぎていって今は数学の時間。


「ここでさっきの公式を当てはめればX=7、-2になる」


なんでそうなるの?

ええ、これ私の計算ミス?

そもそもその公式以前にそれまでの式が全然ちがう。



…だめだ。

私絶対数学だけは一生出来ない気がする…。


どうしよう、もうテストまで時間ないのに。
朝のあの幸せだった時間に戻りたい。


食い入るように、これでもかというほど、黒板に穴が開くんじゃないかってくらい先生が書いていく板書を見つめて先生の話もきちんと聞いているのに全く理解できない。

こんなに真剣に聞いてるのに。
なんで全然理解できないんだろ。


隣の財前くんは、普段全然聞いていなさそうなのになんだかんだですらすらと答えをノートに書いていってる。


不公平すぎる、と妬んでしまう。

こんなに頑張っても成果が出ないと当然ながらやる気もどんどん失せていく。








「名前ー、屋上行くでー」


あれ、もう授業終わってたんだ。

夢中になりすぎて気付かなかった。


先生が授業の終わりの方で配ったテスト対策プリントとずっと睨めっこしていたけど、はじめの基礎の基礎という問題しか解けていない。


『怜ちゃん、どうしよ…』

「…ああ、数学な。名前ほんま苦手やもんな」


怜ちゃんは私の様子を見て悟ったのかなにも聞いて来なかった。

若干涙目になりながらもう一度数学のプリントを見つめる。


「…とりあえず屋上行こ」

『……うん』


プリントを握りしめて反対の手でお弁当を手に持ち教室を出た。
屋上に向かう間もずっと数学のことで頭がいっぱいだった。



「お待たせー」

『……………こんにちは』

「暗っ!!ど、どないしたんや名前ちゃん!?」

「朝ん時とは随分のちがいやな」


力なくいつもの場所に座ると握りしめていた数学のプリントを再び見つめる。
見つめたって解ける訳じゃないのにこうでもしていないと不安に押し潰されそうになる。


「数学、わからへんの?」


突然隣に座っている白石先輩がプリンを覗き込んできて優しい口調で尋ねてきた。


『私、いつもちゃんと先生の話とかも聞いて板書とかもきちんと写してるんですけど…なぜか全然解けなくて……』


最後の語尾の方の言葉はほとんど声になっていなかった。
それほど今のショックはかなり大きい。

『あともう少しでテストなのに…』


きっと私、数学欠点決定だ。

そんな被害妄想まで始めてしまう。


「俺でええなら教えるで?」

『え…?』


白石先輩のその言葉を聞いていたのか忍足先輩が「おおええやん!そうしいや!」と大きな声で賛成を表した。



「今週の土日って部活あったか?」

「いや、試験週間やさかいオフや」

「せやったら土日のどっちかに勉強会開いたらええやん」

『え!?』

「それええわ。たまにはええこというな謙也」

「怜にそない褒めてられたら照れるわ〜!」

「…別に褒めたつもりなかったんやけど」

「そうしよか。ほな誰の家でやる?」

「白石ん家やろ。でかいし広いし綺麗やし」


忍足先輩のその一言で白石先輩の家で勉強会が開かれることが決定した。






予想外の展開に私はただただぽかーんと魂が抜けた様な顔をしていた、と怜ちゃんに昼休憩が終わったときに言われた。

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