心の温度


「遅刻の理由は?」

「寝坊っす」

「昨日何時に寝たん?」

「2時過ぎくらいやと思いますわ」

あまりにも堂々と遅刻の理由を言ってくる財前くんに白石先輩は軽く肩を落とす。

…すごいなあ。
寝坊で遅刻したってこんなに堂々と言える人は珍しいと思う。

さすが財前くん、と逆に感心してしまう。


「はあー…。財前、いつも言うとるやろ?夜更かしすなって」

「すんません」

「次同じこと繰り返すようなら外周100回やで」

「……っす」


部長の威厳というものだろうか。

突然白石先輩の目つきがぎらりと変わり、それにはさすがの財前くんも軽く頭を下げた。ほんと軽くだけど。


「で、なんで苗字さんと一緒なん?」

「朝行く時偶然会ったんすわ。なんや暇みたいなんで朝練見さしたってもええですか」


財前くんが私の言葉が出る前に暇やろって言ったんだけどね。


「それは全然構へんけど、なんや珍しいな」

「…なんすかその顔」

「いいや、気にせんでもええわ」

「……うざ」

ぼそりと呟いた言葉はばっちり白石先輩に聞こえていてまたもや財前くんは白石先輩に謝る羽目になっていた。

その間に私はコートから少し離れた部室の横にある大きな木の場所に足を運ぼうとした。
すると白石先輩と話していたはずの財前くんがすかさず前に立ちはだかった。



「どこ行ってんねん」

『邪魔にならないように遠くの方から見ようかなと』

「別に邪魔ちゃうし」

「そんな遠慮せんでこっちおいでや」

『い、いやでも…』

「ええからええから」


白石先輩のあとをついて行くと「ここに座っとき」と言われ指をさした場所はきっといつもは顧問の先生が座っているだろうコートの中にベンチ。

ここからだとたしかにばっちりすぎるくらいみんなの姿が見える。


だけどこんなところに座れるほど肝が据わっていない。

『いいいい、いいですっ座れないです』

「どんだけ“い”言うねん」

「大丈夫や。今は苗字さんしかおらんし、他の部員らも何とも思わへんから」

な?と眩しいくらいの笑顔を向けられ私がその笑顔に逆らえるわけもなく『…じゃあ失礼します』と言いベンチに座らさせてもらった。


「ほな財前はまず外周してき」

「…何周すか」

「30周」

「はあー…」

大きな溜息を吐いたところでだるそうにコートから出て行く。


へえー30周も走れるんだ。
さすが全国レベル。



「自分編み込み上手やなあ」

『そう、ですか?』

「おん。似合っとるわ」


気付いてもらえた。

それに社交辞令かもしれないけど、褒めてもらった。


その2つのことがどうしようもなく嬉しくて自然に笑顔になる。

編み込みやり直しててよかった。
心の底からそう思う。


「ゆっくり見て行ってな」

『はい』


白石先輩は一言私に言うとコートの中に戻って行った。


少し見ているだけでとりあえず四天宝寺のテニス部はみんな濃い人だということはわかった。

色んな人を見るけどやっぱりじっと見つめてしまうのは白石先輩。


打つ姿も本当にかっこいい。

一つのことに打ち込んでいる姿はいつもよりも何倍もかっこいい。






どうしてだろ。

すごく胸が熱くなる。


気が付いたら涙が溢れていた。
どうして泣くの、なんて自分自身に問いかけても答えは見つからず、誰にも見られないように指で涙を拭う。

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