小さく大きな幸せ


「名前あんな」

『うん?』


休憩時間になって怜ちゃんが私の席までやってきた。


「これからご飯の時、四人で食べることにした」

『四人?』

「名前とあたしと謙也と白石先輩」

『え…』


白石先輩も一緒…?

名前を聞いただけなのに心臓は大袈裟なくらい跳ね上がった。


「ちょっとずつでも話せるようになってきや」

『怜ちゃん…』


これは怜ちゃんなりの私に対する応援なんだよね。
少しでも接点を持たせるような機会をつくってくれたんだ。

『…っ…ありがとう』

「泣くな泣くな。頑張るんやで」

『うん』


もう一度呟くようにありがとうって言えば怜ちゃんはもうええからと言って笑った。







「二人とも待たせたわ」


私と怜ちゃんが屋上に着いて数分後に白石先輩と忍足先輩がやってきた。

やっぱりあれだけ頑張ろうって心で強く思っても本人を目の前にすれば脆くもその思いは崩れていく。

緊張でがっちがちだったけど軽く頭を下げた。
これが今の私の精一杯。


座る位置はやっぱりこの前と一緒だった。

忍足先輩の右隣が怜ちゃん。
怜ちゃんの右隣が私。
私の右隣が白石先輩。


白石先輩はなんてこともないような顔でお弁当を食べながら忍足先輩たちと喋っている。

私はただその光景をボーっと見つめる。


「名前ちゃーん。起きとるかあー?」

『…え?あ、はい!』

慌てて忍足先輩の方を向けばなにか箸に挟んでいたものがすり抜けていった。


「これ落ちたで」


え?と言う前に白石先輩が箸で挟んで差し出されたものは今朝自分で作った卵焼き。

『す、すみません』と慌てて謝り弁当箱の蓋の上に置いてもらった。
すると白石先輩は「食わへんの?」と聞いてくるので『勿体ないですけど落ちちゃったんで…』と言葉を濁すように返事をした。



「ほな、それもらってもええ?」

『えっ…でも落ちたんで食べない方が…』

「大丈夫やて。苗字さんのスカートの上に落ちただけなんやさかい」


いただきます、と言って卵焼きは白石先輩の箸によって口へ運ばれた。

まさか白石先輩に食べられるとは思っていなかったから、今日も特に味見もせず適当に作った卵焼き。
こんなことならもっときちんと味見をするべきだった…。

白石先輩からの反応が怖くて妙に緊張する。


「…美味いわ。料理上手なんやな」

少し驚き気味な顔をして言った。

『ほ、ほんとですか?』

「おん。美味いわこれ」


ずっとずっと好きだった人にこんな言葉をもらえて喜ばずにはいられない。

その場でガッツポーズをしたわけでもないけど、心の中でこれ以上にないくらい舞い上がった。

隠そうと頑張ったけど顔の表情は緩んでいくばかり。


「よかったやん」と耳打ちしてきた怜ちゃんに白石先輩や忍足先輩に気付かれないように頷く代わりに笑って返した。

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