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「ねぇなまえ」

「はうぃ」

「ねぇなまえったら」

「いふぁい!かむみゅいさんいふぁい!ミシミシいってふゅ!」

神威さんは私の頭を掴んでいた手をパッと放してくれた。

「返事早くしないとこうなるんだよ。分かった?」

「…。」

「今度は頭潰しちゃうぞ」

「た、食べてる時に話し掛けるのはどうかと思いますよ」

「へえ」

「嘘です。ごめんなさい。だから頭を掴むのは止めて下さい」

「わかればいいんだよ。これだから馬鹿な部下をもつと苦労するんだよね」


ああそうなんですか。そう思いながら席を立とうとする。


「待ってよ」

神威さんは私の腕を掴み椅子に座らせる。

「何なんですか」

「今日何の日か分かってないの?」

「バレンタインですよね」

「うん」


もしかしてこの人私からチョコを貰おうとしてるのか。


「チョコは阿伏兎さんと自分の分しか用意してません。残念でした」

私は立ち上がり部屋から出て行こうとした。けど神威さんは私の前に立ち往生して私の行く手を阻んだ。



「…なんで阿伏兎にあげるのさ」

そう言った神威さんは先程のほんわかとしたオーラとは違い、どす黒い殺意のようなオーラをまとっていた。


「か、神威さん?なんか目が笑ってるのに笑ってないのは何でなんでしょうか」

「ねぇ、阿伏兎はなまえの恋人なの?俺より大切なの?」

「いやあの、いつもお世話になってるので…」

「質問に答えてよ。阿伏兎より俺のほうが好きなんだよね?」

「阿伏兎さんより頼りになる(戦闘のときだけ)上司だと思ってますよ」

「ふうん」


神威さんは再びほんわかしたオーラに戻りニコニコと笑っていた。
なんてめんどくさい人なんだ。


「じゃあ阿伏兎のチョコちょうだい」

私の前にすっと手を出してへにゃっと笑った。

「もうあげちゃいました。すいません。」

「じゃあそれは後で回収してくるとして、自分用のやつちょうだいよ」


なんだ回収するって。取り上げるってことか。
ああ哀れな阿伏兎さん。ごめんなさい。


「嫌です。一つしかないんですから、って何してるんですか」


神威さんは私の体をぺたぺたと触りだした。


「んー。…あ、あった!」


私のポケットに手を入れ取り出したもの。
そうそれは後で食べようとした自分用のチョコ。

「あっ!返してください!」


なんてことだろう。あの神威さんの手から食料を奪い取れた。
武勇伝だこれ。自分のチョコに対する執着おそるべし!

そのまま手にしたチョコのラッピングを剥がし口の中に入れた。
うま。勝利後のチョコは格別だ。
噛まないで味わって食べよ。


神威さんが目を光らせたのに気づかない私。


「ほんと手のかかる部下だよね」


「・・!んむうっ…んっ」


一瞬の出来事だった。
神威さんはチョコを頬張る私の両手を片手で掴み自由を奪い、顎をもう片方の手で持ち上げ私の口を塞いだ。
それどころか神威さんの舌が口内に入ってきて器用に暴れまわった。
お互いの口が離れたのと同時に、あまりの刺激に耐えかねた私は腰を抜かした。
神威さんはそれを支えてくれた。

「おっと。危ないなあ」

「神威さんが・・、ってあれ?」

口の中の違和感に気づいた。ない。食べていたはずのチョコがない。


「ごちそーさま。」


そう言って開けた神威さんの口には、ドロドロに溶けたチョコがあった。


「あー!私のチョコ!」

「来年もこれやる?それとももっとすごいことしちゃおうか」

「いえ、普通に手でお渡しします」

「えーつまんないのー」



冗談じゃない、心臓が持ちません
(あ、阿伏兎)
(なまえのものは全部俺のだから貰ったチョコ返して)
(いきなりなんだ、このすっとこどっこい。あれは俺の、)
(五分以内に返してね。じゃないと、)
(殺しちゃうぞ。)





















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