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「げ」


そうだと思った。
ここ最近ずっと風強かったし、そうなるだろうなとは予想していた。
分かってたけど、実はちょっと期待していたりしていた。
うん、でも分かってた。はあ、本当に目の前にすると弱音を吐きたくなる。


私の目の前には自転車駐輪所がある。
そしてばたばたとドミノ倒しになっている自転車、運良く立っている自転車が同時に映り込む。

私はいつも端っこに置くからすぐ自分の自転車を見つけることができた。
見た目は被害は少ないものの倒れていた。

私の自転車は折りたたみ自転車の上に後ろの車輪が少しだけ乗っかっていて、斜め後ろに被害が無く無事立っているママチャリがあった。

ああ面倒くさい。
ハンドルと車輪が絡まってたらもっとめんどくさい。
ため息を吐きながら、とりあえず私の自転車のハンドルを持って現状確認をするために持ち上げてみた。

あれ、無事じゃん。
いつもはめんどくせえええええ!!!と叫びたくなるほど絡んでるのに今日は普通に持ち上げられた。


私は立たせようと再び持ち上げ、起き上がらせた。



その時、動いたのが目の端っこに映った。
何がって、斜め後ろのママチャリが。

そうだ忘れていた。私は変なとこでドジなんだった。だからこんなとこでドジをする。
斜め後ろのママチャリは、ばーか!とでもいいたげな丁度掴みづらい憎らしい角度に倒れこんでいった。
それでも負けじとギリギリにハンドルを掴んだ私がいた。


自分すげぇ!そんでなんだこの状況!
片手には自分の自転車のハンドル。もう片手には斜め後ろのママチャリのハンドル。
もうどうしたらいいよこれ。絶望的とはまさにこのこと。


自転車駐輪場のそばにはスーパーがあり、スーパー帰りの客などがちらほら通っていた。
私の横もちらほら当然通るわけで、通行人は当然私をさりげなく見るわけで、まるで公開処刑されてる気分だ。
というより誰か助けて。

温かい手を差し伸べられることも無さそうなため、どうにかしてこの状況を打破しようと考えた。
まず、自分の自転車のストッパーを止めればとりあえず良い方向にいくはず!と安易ながら思いついた。


私は必死に片足を自転車の後輪の近くに持っていく。
だけど片足で二つの自転車のバランスを取れるわけがなく、二つの自転車がぐらぐら揺れだす。


あれ、これ二つとも倒れるパターンじゃね。馬鹿野郎め。


そしてママチャリの方が限界を迎えたようで再び倒れそうになる。
私の目にはスロー再生されたようにゆっくりとその光景が流れていった。



その時私は思った。




終わった。









「大丈夫か?」




声が聞こえた方向を見ればあらまあ、同い年くらいの美しい顔立ちの青年が。

そしてその青年の手を見ればさっき倒れかけていたママチャリが。



「あっありがとうございます!」


私が御礼を言っているうちに青年は「ええよ、ええよ」と言いながらママチャリのストッパーをした。


そして当然のように体勢を整えたママチャリを持ち上げニ、三歩先にある空いたスペースにそっと置いた。


「すいません!本当にありがとうございます!」

「ええって、こんくらい。気をつけてな。」


そういって青年はスーパー方向に歩いていってしまった。
だが途中で彼は振り向き、呆然と彼の後姿を見ていた私と目が合った。
その瞬間彼はフッと微笑んだ。
その笑顔はとても優しくて、思わず顔が真っ赤になったのが分かった。
だけど再び前を向いて彼は行ってしまった。
名前だけでも聞いとけばよかった、なんて後悔したのは心に秘めておくことにした。


彼はきっとすごい優しい人なんだろうな。
そうじゃなかったら、こんな面倒くさい状況に手を差し伸べないだろうな。
しかも全然知らない赤の他人に。
それに常識人だし。気遣いすごいし。
同い年ぐらいなのにすごいや。


そんな回想をしながら家路についた。



漫画みたいな出来事
(謙也!謙也!)
(そんな慌ててどうしたん?白石)
(俺あの子とついに昨日接触してもうた!)
(おお!ついにか!やったやん!)
(もうめっさ可愛かってん!ごっつやばい!)
(ほな話詳しく聞かせろや!)




















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