風邪を引いた。暑いからと腹を出して寝ていたのが悪かったのだろうか。授業を休んだのはいつ振りだろう、思い出せない。風邪だの病気だの、そういった類は大嫌いだ。身体はだるくなるし食欲も無くなる。バレーも出来ない、大好きなご飯も食べられない。薬は苦いし寝ているだけなんて、なんて退屈。嫌になって抜け出してみたらすぐにシナ先生に見つかりこっぴどく叱られ、保健室に監禁されている。保健室には善法寺がいるから逃げられない。何度かちらちら視線を向けると「駄目だよ」と言われた。ちくしょう。外はオレンジ色になりかけてる。一日中寝てたなんて、勿体無い。


「いけいけどんどーん!」

「ちょっ、小平太!?」


馬鹿デカイ声に頭がガンガン痛んだ。首を動かしてみれば確かに七松がいる。あの男は保健室に入る時すら静かに出来ないのか。七松が静かな時って想像出来ないけどさ。布団を頭から被る。だけど所詮は布。音を遮断してはくれない。


「今病人がいるんだから静かにしてくれ」

「おお、すまんすまん。で、病人は何処だ?」

「分かってるくせに…無理はさせないこと。破廉恥なのも許しません」

「なははは、任せろ」


何をだ。カラカラカラ、と戸が開く音がした。たぶん善法寺が出ていったんだろう。私と七松の関係を知っているから気をきかせたのだ。余計な一言があったのはこの際無視だ無視。でも元気になったら一発叩いてやろう。

布団から顔を出す。意外とすぐ近くに七松がいて、ニッと笑った。


「よう病人」

「…うるさい」

「うわ、あっちい」


額に触れた七松の手が冷たくて目を細める。土の匂いがしない。それどころかご飯のいい匂いがする。夕食の後に来てくれたのかな。そう言えば私、ご飯食べてない。でも食欲無い。ほんとうに風邪って厄介だ。七松の手が滑って頬に触れた後、首筋に触れる。冷たい。心地よい。離れていくのが名残惜しかった。


「熱、人肌で吸い取ってやろうか?」

「破廉恥厳禁」

「冗談だ。病人に手を出す程最低な男じゃないぞ、私は」

「…で、何してるの…」

「添い寝だ」


足袋を脱ぎ捨ていそいそと布団に入ってくる。はて、添い寝は破廉恥には入らないのだろうか?熱に冒された頭では分からない。至近距離で笑いかけられて、恥ずかしくなって背中を向けた。よく考えたら私、一日中寝てるから汗臭いと思うんだ。顔も洗ってないし鼻水ずるずるだし涙目だし、見せられる顔じゃない。だけどそれを言うのも恥ずかしい。七松から少しでも離れようとしたら、後ろから強く引き寄せられて、あっという間に七松の腕の中。一瞬何がなんだか分からなくなってしまったけどすぐに我に帰って七松の腹に肘鉄をかました。だが屈強な肉体を持った七松には全く効かなかった。


「善法寺に怒られる」

「気にするな。早く元気になれ。私に感染していいから」

「…ちょっと苦しい」

「ん」


力を緩めて貰って身体を反転させる。七松の首筋に顔を押し付けた。暑い、熱い。頭がくらくらする。風邪のせい?この男のせい?意識が微睡んできた。眠りたくないのに、七松といたらびっくりするくらい安心出来てしまう。悔しいから言わないけど、でも。七松の制服を握り締めたら、額にそっと口接けを落とされた。七松と一緒なら、風邪も我慢出来る、かな。


「早く元気になって、バレーしような」



風邪の功名



目が覚めたら熱が更に上がっていた。どうやら暴君はウイルスをも跳ね返すらしい。七松は善法寺にこっぴどく叱られていた。





Thank You Ruka!
100910/TEN
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