「尊奈門、これ追加」

「えええ!またぁ!?」

「これは私がやるよ」

「あー…うん、頼む」


尊奈門の隣に新しい桶を出して井戸から水を汲んでくる。うなだれる尊奈門から洗濯板とシャボンを受け取ってゴシゴシゴシゴシ洗うのは我らが上司の雑渡昆奈門様の頭巾である。今日の昼餉はうどんだったらしく頭巾には汁やら七味唐辛子やらで汚れている。食べる時くらい頭巾外せってのに組頭は言うことを聞かない。今日だって仕事サボって忍たまのところに行ってるんだ。あんな子供に会ってどうするのか。私と尊奈門はほとんど同時にハアアと溜め息を吐き出す。尊奈門とは同じ悩みを抱える同士だ。


「私は今日四枚目だよ…」

「うわ、もう四枚?」

「手が痛い…」


ザブ、と桶の水から出て来た尊奈門の手は真っ赤で指の関節が切れていた。あかぎれに、そのうえ霜焼けだ。可哀相に。忍者の、少なくとも男の手じゃない。後でよく効く塗り薬をあげよう。尊奈門の分の洗い物を少し取ってあげたらありがとう、とお礼を言われた。全く。私達は雑用係では無いのにこんなことばかりさせられるなんて。私はあかぎれは出来てないけど組頭の代わりに書き物をさせられて筆ダコが出来てしまった。私達は立派な戦忍だってのにくそ、考えたら苛々してきた。


「組頭が帰って来たらガツンと言ってやんなきゃね」

「そうだな。私もそう思う」

「頭巾は外せ仕事サボるなこの馬鹿頭!ってね」

「ふーん、それ私のこと?」


第三者の声がした。今一番聞きたくない声だった。造りの悪いからくり人形みたいにギシギシ言わせながら振り返ると予想通り組頭がおられた。私と尊奈門に向かって右手をひらひら振る。全身から冷たい汗がブワッと噴き出した。い、いつもならもっと遅くに帰って来る筈なのに何故。組頭は何も言わない。ただじっと私を見下ろしている。隻眼のくせになんて迫力だ。だけど私は引く訳にはいかない。これからのタソガレドキの為に、そして尊奈門の可哀相な手の為に。頭巾はともかく仕事をサボる癖は直して頂かなくては。私は泡まみれの手を握り締め立ち上がった。


「くっ、組頭!」

「はいお土産」

「仕事をサボっ…え?」

「尊奈門にも」

「えっ?私??」

「いつも悪いね」


私と尊奈門にひとつずつ渡された包み。これは私の記憶が正しければ巷で有名な高級茶菓子ではなかっただろうか。甘いものが好きだけど私なんかの給料で買うには高すぎるお菓子だ。それをこんなに、しかもひとつずつ。私と尊奈門は顔を見合わせた。組頭はそれ以上何も言わずくるりと踵を返し歩き出す。方向的に自分の部屋へ向かわれているみたい。…まさか組頭、これを買いに行ってたのかな。私達の為に。そう考えると頬が勝手に緩んで、私と尊奈門は照れ臭そうに笑った。そう言えば組頭って前に尊奈門の無断欠勤を許してくれたことがあったっけ。何気なく優しいところがあるんだよな。これだから組頭からは離れられない。むかつくんだけど、いい人だ。


「あ、お前は減給ね。馬鹿頭は怒りました」


歩きながら肩越しに振り返り指を差された。…前言撤回。やっぱりむかつく人だ。遠くなる背中を睨んで桶をひっくり返した。







(100221/joy)
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