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読んでいた本をぱたん、と閉じた。微かな風が生まれて近くにあったプリントが飛ぶ。それがテーブルから落下するのを大きな手が回避した。わたしに向けられたプリントを見つめる。礼を添えて受け取ると小平太は嬉しそうにニッと笑った。ううむ…分からないなあ。わたしは小平太にばれないように肩を竦めた。今の現在地、図書室。カウンターには怪士丸ときり丸がいて利用者はわたしだけ。いや、わたしの隣に小平太がいるけど『利用者』ではない。奴はただただわたしの顔をガン見してるだけだ。本を読んでる訳じゃない。

調べ物をしようと図書室へ向かう途中に小平太に会った。小平太はわたしを見るとヒーローを見つめる子供みたいに両目をキラッキラッに輝かせた。


「誕生日おめでとう!」


学園が揺れるんじゃないかと思うくらい大きな声で言われてわたしは目をチラチラと白黒に変えた。そう言えば、そうだった。わたしって今日誕生日だった。それをどうして小平太が知ってるのかは分からないけどお祝いしてもらうってのは嬉しい。ありがとう小平太、と言ったら小平太は照れ臭そうに笑った。そしてわたしは本来の目的、図書室に向かった。するとすぐ後ろに気配。振り返ればニコニコ顔の小平太。


「小平太?」

「なんだ」

「わたし図書室行くんだよ」

「そうか。なら私も行く」

「え?バレーは?」

「めいこがしたいならする」

「わたしは図書室に…」

「なら図書室に行こう」



意味が分からない。あの小平太がバレーもせずに図書室なんておかし過ぎる。だけどそんなことをニコニコ顔の小平太に言える訳も無くわたしは小平太と一緒に図書室へ向かった。わたしが調べ物をしている間の小平太は隣で頬杖をついてうとうとしたり本をペラペラめくってみたりわたしをガン見したりと様々。やっぱり退屈なんだろう。失礼だけど、小平太に図書室って全然似合わないし。バレーの相手をしてあげたいのはやまやまなんだけど調べ物はまだ終わりそうにない。てゆうか委員会の子達とバレーするなり塹壕掘るなりしてきたらいいのに。なんでわたしと同じ行動を取るのかな。未だにわたしを見つめる小平太と視線を合わせる。小平太が不思議そうにぱちぱちと瞬いた。


「退屈なら遊んでおいでよ」

「私は退屈じゃないぞ」

「退屈そうだよ」

「違う。私は今めいこにプレゼント中だから退屈じゃない」

「…え?」


小平太の言ってる意味が分からず首をかしげる。小平太は気付いてなかったのか、と頬杖から顔を離してわたしと向き合った。揺れる藍色の髪が風に吹かれてふわりと舞ったのが、小平太の笑顔にとても似合っていた。


「私は今めいこに『私の一日』をプレゼント中なんだ」

「…『小平太の一日』?」

「簪は好みがあるし団子だってそうだ。着物は高いし下駄はサイズが分からない。それなら私が一日傍にいてめいこのしたいことをさせてあげようと思ったんだ」


歯を見せて笑う小平太を見て、わたしはポカーンと口を開いた。なるほど。それなら今日の小平太の行動の意味が分かる。バレーをしないのも慣れない図書室に来るのもわたしが望むことだったからなんだ。だけど、そんなの言われなきゃ気付かないよ小平太。分かりにくすぎる。でもこれ、小平太は小平太なりに一生懸命考えた答えだったんだろうなあ。わたしの為だけに?うんうんと悩んで?あの暴君が…?そう思ったらすごく嬉しくなった。頬が緩むのが分かる。広げていたプリントやら教科書をまとめて立ち上がる。それを全部持ってカウンターにいる怪士丸に預かって貰うことにした。


「めいこ、本はいいのか?」

「うん。せっかくの誕生日だもの、遊んでくれるよね?」

「ああ!今日はめいこのしたいことを何でもするぞ!」



カタチは無い、
だけど最上級のソレ






dear.meiko from.ten
happy birthday!
(20100430)
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