明日はなんとわたしの誕生日である。めでたいめでたいわたしバースデー!サッチ隊長はわたしの大好物ばっかり作ってくれるって言っていたしナースのみんなやエースもプレゼントを用意してると言ってくれた。ああ、なんて楽しみなんだろう!早く明日にならないかなあ!

そう思って過ごしていたこの20日もそろそろ終わりを告げようとしている。腕時計を見れば23:53だった。よし、あとちょっと。あとちょっと、なのに。


「マルコたいちょ〜…」

「情けねェ声出すんじゃねェよい、手ェ動かせ」


夜ご飯を食べ終わった後、書類の整理を手伝え、とマルコ隊長に捕まってしまい今に至る。わたしはマルコ隊長とふたりっきりの仕事があまり好きじゃない。楽しく話をしながらなら未だしもマルコ隊長は一言も喋らずただ黙々と書類を片付けていくから面白くもないのだ。話し掛けたら口より手、って怒られるし。そりゃマルコ隊長と一緒に居られるのは嬉しいけど…マルコ隊長わたしが明日誕生日だって分かってるのかな。わたしの恋人のくせに分かってるのかなコノヤロー。わたしが机に突っ伏しているとマルコ隊長が呆れたように溜め息を吐き出した。


「分かった分かった、もう戻っていいよい」

「えええ!?」

「…なんで残念がる?」

「わたし明日誕生日ですよ!?今夜一緒に過ごしたっていいじゃないですか!」

「おれァ仕事があんだ。送ってやるだけ有り難く思いな」


部屋に戻れるのは嬉しいけど、でも。わたしの反論虚しくマルコ隊長は立ち上がり部屋のドアを開けた。そこから動かないのは本当にわたしを送ってくれるんだろう。本当に、マルコ隊長はわたしと過ごす気は無いんだ。普段でも時々お互いの部屋で寝たりするのになんで今日に限って駄目なんだろう。なんで仕事優先なの。なんで、なんで、なんで。わたし、誕生日なのに。マルコ隊長を見つめたら涙が出そうになって慌てて俯く。勢いよく立ち上がると椅子がガタンッと揺れて倒れてしまったけど気にしてられなかった。


「マルコ隊長のバナナ!」


お腹の底からそう叫ぶとわたしは全速力で部屋を飛び出した。部屋を出る瞬間横目でマルコ隊長を見たらめっちゃ怖い顔をしていたけど足は止めなかった。ひどいひどいひどい、あんまりだ。恋人の誕生日を一緒に祝ってくれないなんて有り得ない。廊下を全力で駆け抜けて自分の部屋に飛び込む。床に膝をついてベッドに突っ伏して、わたしは声を殺して泣いた。ベッドからはふわりとローズの香りが漂う。ああ、そう言えば一昨年の誕生日にマルコ隊長に貰った香水、ベッドにちょっとつけたんだっけ。ベッドの上に転がるテディベアは去年の誕生日にマルコ隊長に貰ったもの。毎日抱いて寝るからクタクタしている。それらを思い出すと涙が止まらなかった。どうして今年は何も無いの?もう飽きてしまったの?分からない、分かりたくない。ベッドに乗り上げて枕に顔を突っ込んだ、ら。


「い゙っ…!?」


ゴツ、と何やら硬度のあるものが額を強打した。枕ってこんな硬かったっけ?予想外の感触に目を丸くする。触ってみると小さな箱のようなモノと小さなメモ用紙のようなモノがあるのが分かった。でも薄暗い為断言は出来ない。メモ用紙を手に枕元にあるライトを着けた。



Happy Birthday
You only of me



何度も何度も読み返した。だけど内容は変わらない。誕生日おめでとう、私だけのあなたへと書いてある。それを理解したら顔がカッと熱くなり更に涙が溢れた。この字体はよく知ってる。だってさっきまで見ていたんだから。不意に誰かが部屋に入って来るのが分かった。その誰かは枕元にあった硬度のある小さな箱を手に取りわたしの隣に座ると箱を開けて中身をわたしに見せてくる。箱の中身は、シンプルなシルバーの指輪だった。ここまできたら見なくても分かる。この人は、マルコ隊長だ。


「お気に召さないかい」

「ば、かじゃ、ないですか」

「おめェに言われたくねェ」

「ふ、普通に、渡せば」

「驚かせてやりたかった」

「ばか、ば、なな」

「そのクソ発言にゃ目を瞑ってやる」


マルコ隊長はわたしの左手を取ると薬指に指輪を填めた。指輪の上からそっとキスを落として、目を細めて笑う。


「ここは予約済みだ。誰にも渡さねェよい」


勿論、という返事の代わりにマルコ隊長に飛び付く。マルコ隊長はしっかり受けとめてくれた。それから、交わしたキスはとてもやさしくて穏やか。視界の隅で捕えた時計が00:00を差していた。





Dear,kanako From,ten
HappyBirthday!
101121
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