星が好きだ。星の歌う滅茶苦茶下手くそな歌も意外と魂にくるギターもノリのいい性格も意外と優しいところも何もかも引っくるめて好きだ。だけど知ってる。星は、ニノが好きなんだ。ニノにはリクがいるけど星は諦めてない。むしろ恋人が出来てから更に燃えてる気がする。最近はよく相談されるようになった。今日もわたしは星に呼ばれてトレーラーの中にいる。話す内容は勿論、ニノだ。音楽を流すヘッドフォンを外す。星はニッと笑った。


「今度のライブはこの新曲でいくつもりなんだけどよ」

「いいと思う。ニノが好きそうな曲だね」

「だ、だろ!分かってんじゃねーか!」


星が真っ赤になって新曲を口ずさんだ。マスクなのに赤くなるってすごいな。マスクの造りが気になる。MDの電源を切ってヘッドフォンをソファーに置いた。

分かってるよ。分かってたよそんなこと。星の作る曲がニノの為のものだってことくらい。わたしはただ試聴だけの存在。この曲はわたしのものじゃない、ニノのものだ。わたしは実験体に過ぎない。そう思ったら悲しくなった。でも、そんな顔は出来ない。星と居る時は笑ってたいんだ。


「悪ィな、わざわざ。コーヒー飲むか?」

「うん。砂糖ひと」

「砂糖ひとつミルクふたつ、だろ。了解了解」


星はわたしの言葉を遮ってそう言うとコーヒーを淹れに背中を向けた。星の家には何度か来てる。コーヒーも淹れて貰ってる。だから覚えられたのかな。でも、こうして言われたのは初めてだった。頭を乱暴に振った。分かってる。期待しちゃいけない。そうして傷付くのはわたしだから。星は優しいだけなんだ。しばらくしたらコーヒーのいい匂いが漂ってきた。マグカップをふたつ持った星が戻ってくる。ほい、と手渡されたマグカップの中身は既にミルクが混ざっていて仄かに甘い香りがした。


「いやーいい歌が出来たぜ!サンキューな!」

「わたしもコーヒーご馳走になってるし、お互い様だよ」

「お前はよ、好きな奴とかいねえのか?」

「…え?」


心臓が、止まるかと思った。そうじゃなくても一瞬息が止まった。手にしたマグカップが震える。星にそんな質問をされたのは初めてだ。星はコーヒーを一口喉に流すと照れ臭そうに笑った。


「いつも相談に乗って貰ってばっかだからよ、たまには俺も力になるぜ?」

「…いない、よ。好きな人なんかいない」

「そうか?勿体ねーな、お前可愛いのに」

「っか、可愛いとか」

「ま、ニノが一番キュートだけどな!」


ぱりん、と。わたしの中で何かが砕け散った。ぱらぱら散って突き刺さる。痛みを広げていく。目の前がじわりと滲んだ。分かってるよ。分かってたよそんなこと。星がニノを好きだってことくらい。星の中にはニノしかいないことくらい。

だけど仕方ないじゃんか。好きなんだよ。星がニノを好きって想いとわたしが星を好きって想いの大きさは同じなんだ。違う、きっとわたしの方が好き。星がニノを想う気持ちより、わたしは星が好き。好き、なんだよ。ほんとうはもう我慢出来ないくらい好きなの。


「…あ、やばい」

「ん?どうした?」

「鼻血出たかも」

「はぁ!?動くなよ、ほらティッシュ!」

「ありがと…あ。ごめん鼻水だった」

「なんだそりゃ…」

「へへ、恥ずかしいからあっち向いてて」

「ハイハイ」


星が背中を向ける。その隙に鼻をちーんっとかんだ。零れた涙も拭いた。ちょっと鼻が痛くなったけど涙目の言い訳になるから丁度よかった。

コーヒーを飲んだ。でも、味は分からなかった。





(100709)
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