暦の上ではもう春だと言ってもおかしくないけれど夜はまだまだ冷える。冷たい風から身を守るように丸くなって座った。床が微かに軋んだ。その音がやけに耳を突いた。静かな、静か過ぎる夜が、ちょっと悲しかった。

今日だけは一緒にいて欲しかったけど、そんな我が儘は言えない。彼は今戦場へ実習に行っている。予定だと帰るのは明日の早朝。今日帰ることは、まず有り得ない。有り得ないけどこうして外で待ってしまうのは乙女心というやつだ。まあこのくノ一教室で待っていたって忍たまの彼が来られる訳は無いのだけど。


「…寝よ」


明日も通常通りに授業があるし夜更かしは出来ない。授業中に居眠りして怒られるのは嫌だ。立ち上がり縁側から自室に入る。既に敷いていた布団の上に立った、その瞬間だった。カタ、と音がして顔を上げる。その瞬間目の前に何かが落ちてきた。視界が真っ暗になる。それと同時に増えた呼気がひとつ。ひとつは勿論わたしのもの。なら、もうひとつは?だれ、と訊く為に開いた口は塞がれた。唇に触れる冷たい制服の感触にひどく泣きそうになった。


「…遅くなって済まない…」


どうして。帰るのは明日の朝じゃなかったの。訊きたいことはたくさんあったけど声にならなかった。長次にしては珍しいくらいの荒い呼吸がすべて物語ってる。ねえ、自惚れていいよね?わたしの為に急いで帰って来てくれたんでしょう?きつい筈なのに。実習の帰りなんて疲れてる筈なのに。なのになんで。なんで長次にはわたしの欲しいものが分かってしまうんだろう。ゼエゼエと上下に揺れる肩を抱き締める。すると一層強く存在を感じて、わたしは、誰よりも幸せになる。


「…誕生日、おめでとう」

「うん」

「生まれてきてくれて、出逢ってくれて、ありがとう」

「うん」

「…これからも」

「うん。よろしくね」


口下手のくせに感動すること言いやがって。堪えきれずにぼろりと涙を零したら、長次が穏やかに笑った気がした。



速やかなる信仰





dear.kota from.ten
happy birthday!
(100502)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -