「人違いよ。私はあなたを知らないわ」
わたしの大好きなアリスがそう言った。信じたくなかったけれど間違いなくわたしに放った言葉だった。それは何より鋭いナイフになってわたしの身体を切り裂いていく。アリスの目は不安そうに揺らめいていた。昔わたしに見せていたきらきらした瞳じゃなくてわたしを怖がっている目だった。どうして、と思った。アリスは成長した。可愛らしいレディになった。その過程でわたしを忘れてしまったなんてどうして、と悲しくなった。アリスだけど違う。アリスなのに、違う。こんなアリスはアリスじゃない。
「酷い、酷いよアリス」
「ご、ごめんなさい。本当に分からなくて…」
「わたしはアリスを忘れたことなんて無かったのに」
「ごめんなさい…ねぇ、泣かないで」
「泣いてない。わたしは鳴くことしか出来ないから」
わたしはカナリアだから。泣くことは出来ない。その代わりいつもいつもアリスの為に鳴いていた。晴れの日も雨の日もアリスがただ「歌って」と言うなら喜んで歌った。アリスが大好きだから、いつも歌っていたのに。なのにアリスはわたしを忘れてしまったのだ。あのあたたかい木漏れ日のような日々を、優しい匂いを、何もかも。それはとても悲しくて、とても冷たくて、とても恐ろしいこと。
「アリスなんて嫌い、嫌い、嫌い。大好きだけど、嫌い」
歌うように呟く。やっぱり涙は出ない。
あなたのわたしは死んだの
101119