どうして、どうしてどうしてどうしてどうして。嗚呼どうして!解らない解らない解りたくない、解りたくもない。認めたくない。それなのに両の目からは大粒の涙が零れて頬を濡らす。泣くな、泣くんじゃない。こんなの認めない。許さない。違う。うつ伏せに横たわる黒のコートを強く睨み付けた。


「何故、庇ったのですか」

「…黙れ」

「答えて下さい」


普段なら口答えには酷い体罰が降る。けれど今のボスは酷い体罰どころか暴言もなく、全く動かない。苦しげに体が上下するだけだ。私が悪い。すべて私の所為だ。ボスとの任務に浮かれていて隙が生まれたのだ。殺し損ねた人間に気付かずにいた私を庇ってボスが撃たれた。それも一発じゃない。三発は撃たれた。腹と肩と胸。胸は左を撃たれていたかのように見えた。急所を外したとはいえ致命傷には違いない。すぐにこの部屋にいる敵は皆殺した。ボスは倒れたまま、動かない。やめて下さいボス、貴方が地に伏す姿など誰も望んでない。私を庇いさえしなければこうはならなかったのに。いつものように私のことなど犬畜生の如く扱って下さればよかったのに。体が震えて歯がガチガチとぶつかる。涙が止まらない。視界は歪んだままだ。


「ボス、立って下さい。帰りましょう」

「馬鹿か、カス」

「お叱りは屋敷で幾らでも」

「逃げろ」

「…な、にを」

「奴らが来る前に、窓から逃げろ」


ボスの右手が弱々しくそっと窓を指す。奴らが来る?ボスの超直感が何か悟ったのだろうか。窓を見つめた後腕で涙を乱暴に拭ってボスを見つめた。うつ伏せに倒れているから表情は解らない。貴方は今どんな顔をして部下に逃げろと言っているのですか。怒りに似たものが込み上げる。悲しい気持ちと後悔の念で胸が詰まる。ボスの伸ばした右手を掴み引き上げた。身を屈めて肩に担ぐ。背の高いボスを引きずるような形になってしまったけど今はそれでいい。


「何を、してやがる」

「貴方も逃げるんです」

「無理だな」


ボスの言葉を無視して窓を開け放つ。それから下を覗き込んだ。ここは2階だ。飛び降りるくらい常ならば造作ないことだけど今はボスがいる。それも手負い。仮に飛び降りたとしてボスを受け止められるか?その衝撃にボスは堪えられるか?様々な不安が過ぎる。駄目だ、どれだけ考えてもここから飛び降りるのは不可能に近い。ならば出入り口から逃げる。急いで車を手配して屋敷に戻りボスの手当てをする。手遅れなんかじゃない。絶対に死なせない。踵を返そうとした時だった。


「おい」

「なんですか」

「生きろ」

「!」


ボソリと低くしゃがれた声で告げるとボスは私を思い切り殴り飛ばした。脳が揺れるくらい痛かった。こんなパンチは初めて受ける。眩暈がして大きくよろめき、私は窓の外へと放り出された。落下する私の目から涙が泡のように昇る。ボス、ボス、ボス。さっきまでいた部屋から知らない声がした後に銃声が響いた。口の中に広がる鉄の味を愛おしく想いながら、私は激しく泣き叫んだ。嗚呼、ボス、



絶対命令






(100710)
昔のを修正したもの
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