は、とこぼれた息は私のか彼のか。酸素を求めて喘いだ唇がまた塞がれる。緊張して噛み締めた下唇を柔らかい熱が這って思わず力が抜けた。イゾウはそこを逃さず、強引に舌を侵入させる。舌が触れ合う感触に首の後ろがぞくぞくと粟立った。ざらざらと、ぐちゃぐちゃと、緩やかに派手に、確実に犯されていくのが分かる。ああ息が出来ない。私の分の空気まで奪われているみたいだ。イゾウの滑らかな手が腰を引き寄せる。もう片方の手は腰から背中、肩をなぞるように上がってきた。なんて、やらしい手付きだろう。指先が耳を撫でて身体を揺らす。今はどこに触れられても駄目だ。過敏になってしまってる。なんとかイゾウの胸を押し返すと、イゾウはようやく唇を離した。はっ、はっ、と短い呼吸を繰り返す。手が震えた。


「なァ」

「な、…なに」

「舌出して」


紅い唇が紡いだ言葉に目を見張った。舌を出せというのは、そういうことだ。呼吸困難になりそうなこの行為をまだしたい、と。ぞくっと背筋が震えた。朱を引いた切れ長の双眸が細くなる。柳眉が苦し気に寄せられた。笹舟の形に歪んだ唇は綺麗で、妖艶。男とは思えない溢れるその色っぽさにくらくらと目眩を覚えた。額から顎へ伝った汗が私の胸で弾ける。なんとなく、私は彼に食べられてしまうのだと思った。


「早く」


イゾウの手が少し乱暴に私の顎を掬った。まだ呼吸の整わない唇は開いたまま。野獣染みた眼に覚えたのは恐怖ではなかった。びりびりとじわじわと追い詰められるような焦燥感。私は、期待しているのだ。彼に溺れること、与えられる熱に喘ぐこと。背筋が震える。怖くないのに震える。どうしようもなくイゾウがいとおしい。狂おしい。触れ合っていると焼けそうになる。触れ合っていなければ焦がれてしまう。手触りの良い服をきつく掴んだ。皺になってもいい。彼に何かしら残したのが私であるなら、それすら誇らしい。

申し訳程度に舌を出せば、まるで噛み付くような勢いで口接けられた。瞼裏で彩雲が流れる。その中に稲妻が一際強く光った。溺れる。逃げられなくなる。だけれど逃げようと思ったことなどなかった。溺れてしまっても、彼に溺死してしまうのなら構わなかった。このままキスで窒息死出来たならそれはきっとロマンチックだと考えて、彼の背中に爪を立てた。





召しませ






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110306/ten
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