あんたは男そっくりだね。女将の台詞に私は飲んでいたお酒を勢いよく噴き出した。変なところに入ったお酒が痛くて苦しくてゴホゴホと咳き込む。涙目になって女将を睨み付けると女将は上品に色っぽく笑った。そりゃあ確かに女将は綺麗だけど、だからってそんなことを言っていい訳じゃない。何をしても許されるのは蛇姫様だけだ。まあ蛇姫様の我が儘も許しがたい時があるけど仕方ない、蛇姫様はお美しいもの。例え神様だって蛇姫様には逆らえない。私はタオルで口の周りを拭ってふうと息をついた。


「それはどういうこと?」

「そのままさ。あんたは男そっくり。ルフィみたいだってこと」

「わ、私はルフィみたいに野蛮な言葉を使わない!」

「言葉じゃなくて見た目を言ってんだよ。あんた、胸だってないじゃないか」

「……!」


女将の言葉に私は絶句した。胸がない。それは私のコンプレックスであり絶対に言われたくない言葉なのである。胸がない、というのは語弊が生まれる。正しくは胸が小さい、だ。私は他の女に比べて胸が小さかった。背はそれなり、足だって長くてウエストはキュッとくびれている。戦闘能力も高い。だけど胸が小さい。それだけが私の枷になっている。ショックを受ける私に女将は腕を組んで豊満な胸を突き出した。挑発的なセクシーポーズに私は呻き声すら出ない。なんで、なんだって私は胸が小さいんだ。マーガレットと歳は変わらないのにマーガレットのあの発育の良さは何事だ。食べてるものに何の違いがあるのか。私には解らない。解っていれば今頃私の胸はばいんばいんだ。未だにくねくねとポーズをとる女将が見てられなくて私は店を飛び出した。

ニョン婆のところへ行こう。何故だかそう思った。ニョン婆は物知りだから私の胸を大きくする方法を知ってるかも知れない。…まあ別に胸なんか小さくたって困りはしないんだ。闘う時に胸が邪魔をしなくて動きやすいし。って言ったら負け惜しみね!って笑われるから口にはしないけれど。ニョン婆の家は静かだ。賑やかな町並みも好きだけどこの静かさも嫌いじゃない。ニョン婆の家のドアをぶち開けて飛び込む。するとそこにいたのはニョン婆ではなく、せわしなく口に食べ物を突っ込むルフィだった。ルフィは私を視界に入れると口をもごもごさせた。私がこんな下品な種族と似てるなんて…女将は非道すぎる。


「んあ?なんらおめぇ」

「ニョン婆は?」

「っんぐ。寝たぞ」

「…お前は何をしてる?」

「腹減ったから喰ってる」


そう言ってる間も手を休めることなくルフィは口に食べ物を運んでいく。既にお腹はパンパンに膨れてはち切れそうなのにまだ食べるのか。男って大食らいらしい。フリルが嫌いだし股にキノコが生えてるし、男は本当に不思議な生き物だ。にしてもニョン婆は寝てるのか。確かにもう寝ていてもなんらおかしい時間ではない。だけどこのまま酒場に戻るのも悔しい。絶対馬鹿にされる。ちらりとルフィに目をやるとテーブルの上に白酒があった。多分ニョン婆のだろう。丁度いい、ここで飲み明かしてしまおうか。私はルフィの隣に腰を下ろして白酒を手に取った。俺んだ!とか何か言われるかと思ったがルフィは一瞬手を止めただけだった。


「なんだ?婆ちゃんに用があったんじゃねえのか?」

「寝てるのなら仕方ない。ここで飲み明かすことにする」

「ふーん。喰うか?」


ルフィは食べかけの肉を差し出してきた。私は骨を押して要らないと首を横に振る。お腹が空いてない訳ではないけど食べかけの肉を食べるのは下品な気がした。そうだ、私は食べかけの肉を食べたりしない。口の周りを食べ物で汚したりしない。身嗜みはいつも整っているしテーブルマナーも完璧だし言葉遣いだって綺麗。ルフィは嫌いじゃないけど、それでも私は男には似てない。胸だってあんなにペッタンコじゃない。ルフィのなにもない胸をじっと見つめて私は思わず口を開いた。


「…やっぱり似てない」

「ん?なんだって?」


ぽつりと呟いた言葉をルフィは逃さなかった。その時丁度食べ物がなくなってルフィはハーッと息をついた。口の周りがべとべとだ。私は見てられず近くにあったタオルを差し出す。ルフィはおぉサンキュ、と豪快に口を拭いた。戦い方も喋り方も食べ方も、男とは豪快な生き物なのだろうか。特に気にならないけど。白酒を一口喉に流してふうと息をついた。


「島の女に私がルフィに似てると言われた」

「? 似てねえじゃん」

「ほ、本当にそう思う?」

「お前は女で俺は男だ。似てるとこなんかねえぞ」


ほら、ほら!ルフィ本人が言うのだから絶対に似てない。なんだかルフィが輝いて見える。気をよくした私は白酒を一気に喉へ流した。少しくらりと揺れる感覚に襲われるがそれが心地よい。酒の醍醐味だ。うん。気分がいい。男って意外といい生き物だ。蛇姫様はルフィに好意を抱いているらしいけど少しだけその気持ちが解った気がする。ルフィは強いし優しいし物分かりがいいし。いい奴だ。ルフィに飲む?と白酒を差し出す。だがルフィの視線は白酒ではなく私の顔に集中していた。…いや、顔でもない。私の顔の…やや下?なんだろう。私がルフィの視線を追って視線を下げてみるのとルフィの手が伸びてくるのはほぼ同時だった。


「まぁ、確かに小せェかな」

「……!!!」


胸を掴まれた。自分でもろくに掴んだことのない胸を他人に、それも男に掴まれた。それが何を意味するのかよく解らないが背筋がゾッとした。なんかとてつもなく失礼なことをされている気がする。男に触れられるのは初めてだからどうなのかは知らないがすごく、すごく嫌だ。これは、無理だ。

バシィッと小気味よい音が響く。絶対私は男に似てない。そして私の胸は小さくなんかない。





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