「…これはなんなの」

「珍しく長次が羽目を外してな。面白いからお前にも見せてやろうと」


そう言ってニヤリと笑う仙蔵を見て、ああこいつ確信犯だなと思った。仙蔵から足元に目を移動させる。そこには上半身裸で、でろんとだらしなく横たわる長次がいた。

自室で宿題をしていたら突然天井裏から仙蔵が現れた。なんで私の部屋を知ってんだ、てゆうかなんでここに、くノ一教室には先生方が仕掛けた罠が至るところにあるはずなのに。ぐるぐると混乱する私に有無を言わさず仙蔵は「ついて来い」とだけ言った。一年からの付き合いだが仙蔵に逆らって良いことがあった試しがない。宿題もあと少しだし、ここは素直に従っておこう。仙蔵の後を追って仙蔵の自室に連れられてみれば、六年の面々が酒を交わして馬鹿騒ぎしていた。小平太は真っ赤な顔をして「私の勝ちだ脱げ留三郎!」と留三郎を剥いでいたし、上半身裸の留三郎は「やめろオオオオ!」と必死で抵抗している。伊作は真っ赤な顔で褌一丁でコーちゃんに頬擦りしていて文次郎は座り込み両手を床について俯きぷるぷる震えていた。褌一丁で。たぶん小平太に剥がされたのがショックなんだろうなあ。私は仙蔵を見つめて、冒頭に戻る。


「長次、長次。大丈夫?」

「………」

「長次も剥がされたんだね」

「あいつには敵わんさ」

「仙蔵は?」

「私は特別だ」


ああ、なんか納得。膝を着いて長次の肩を揺らした。それから長次も酒を飲んでいると思い直し、揺らす手を止めて背中を撫でた。長次はいつもハイテンションになる小平太のストッパーだからここまで酔うのは珍しい。てゆうか長次が酔い潰れるの初めて見たかも。長次って酒強いし。

背中を撫で続けていたら長次がもぞ、と身体を動かした。やたらゆっくりゆっくりと上体を起こして私の顔を見つめる。仙蔵ほどではないけど小平太よりはさらさらした髪が肩から胸へ流れ落ちた。あらら真っ赤っ赤。ほんとに珍しい。長次は真っ赤っ赤な仏頂面で私をしばらくじっと見つめてきた。


「大丈夫?水いる?白湯?」

「………」

「長────」


次、と。言葉は、続かなかった。仙蔵が「おぉ」なんて呟くのを辛うじて聞いた。ぬっと伸びてきた逞しい腕が腰に回り強く引き寄せられて、息が詰まった。

長次は私のお腹に顔をすり寄せてくる。ぎゅううっと抱き締めてくる。必然的に膝枕をする形になってしまった私は長次の真っ赤な耳を呆然と見つめた。わ、私は今、何をされてるの。長次の腕が腰に回って、お腹にぐりぐりされて、てゆうか贅肉ばれちゃう離してエエエ、という心の叫びが届く訳もない。酒は一口も飲んでないのに顔に熱が集中するのが分かった。


「ちょ、ちょちょちょちょうじさんあの、ちょっと」

「…かわいい…」

「へえっ!?」

「かわいい…すごく…」


か、かかかかかか…!あの無口で喋っても口下手で朴念仁の中在家長次が、長次が私を、かかかかかか。言葉にならない。長次は変わらずぐりぐりぐりぐりと顔をすり寄せている。振り払おうと長次の肩に触れて、固まる。そうだ。長次は上半身、裸だった。さっきまでは触っても何てことはなかったのに状況が状況なだけに、固まることしか出来ない。さ、触れないじゃないか。なんか妙に意識するじゃないか。制服の上からでも分かるくらい逞しい身体はやっぱり、逞しかった。


「長次、あの、お願いだから離して、ね?」

「…、…」

「なに?」


早く離してもらわないと心臓が保たない。適当に受け流してしまおう。首を捻ってこっちを向いた長次へぐっと耳を寄せる。長次は酒臭い息をこぼしながら、掠れた声で呟いた。


「…す き、だ」

「………ちょ」

「ゔ」


顔から火が出る。そう思った瞬間、長次が顔をひそめた。小さく呻いた声はなんだかくぐもっていた気がする。長次は肩をがくんがくんっと揺らして口を押さえた。明らかに様子がおかしい。ちょっとまさかこれ、えずいてない?長次がげほげほっと咳き込んだ、瞬間。


「ぎゃあああああああ!」

















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翌日の昼休み、中庭ではためく自分の制服を眺めた。夜中ずっと洗ってやっと匂いがとれたんだよね。いやあ、まさかあんなことになるとは。くるりと振り返り、真っ青で頭を押さえる長次を見てくすくす笑った。


「昨日の記憶は?」

「…あまり…」

「そ」


じゃあ今度は、素面で言ってもらわなくては。そう思って、やっぱり死ぬほど恥ずかしいからいいやと真新しい制服を見下ろした。





Special Thanks mohi!
110406/ten
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