初めて好きだと想いを伝えたのは五年前。それから毎日毎日想い続けて、今日。とうとう最後の最期まで私の気持ちを断ってトキは死んでしまった。星が、消えてしまった。罪な人。私のこの想いは叶うことなく迷子になった。苦しくて悲しくて切なくて涙が止まらない。トキは老若男女問わず優しい人だった。この絶望ばかりが漂う時代にトキはまるでイエス・キリストのようだった。そんな彼に私は、堪らなく惹かれていた。だけどトキは頑なに私を拒んだ。何も要らない、持っているものさえ捨てられる、だからあなたの傍にいたい。そう言ったらトキは真剣な顔をして「それは叶わないよ」と零すだけだった。何度好きだと言ってもトキは笑ってくれなかった。時には「馬鹿げたことを言ってはいけない」と怒られたこともある。トキは決して私を受け入れず、そのくせ私にも、皆に優しかった。それが女にどんなに辛いかなんて彼はきっと分かってるのに。

見上げた空は高い。星だって遥か。止まらない涙をそのまま、私はトキの名前を呟き続けた。そうやってトキが現れる訳でもないのに私はトキの名前を呟き続けた。トキ、トキ、トキ、トキ。逢いたい。話したい。ぼろぼろ泣いてる私の耳に不意に足音が聞こえた。振り返らない。きっとこれはケンシロウだ。そうじゃなくて夜盗だったとしても、殺して貰えればその方がずっといい。足音はすぐ後ろでぴたりと止まった。


「トキはお前を愛していた」


聞こえた声はやっぱりケンシロウのもの。目を見張った。ケンシロウ、いま、なんて言ったの?トキが私を?驚き過ぎて身体が動かなかった。声さえ出なかった。うそ、だ。そんなの嘘。きっとケンシロウが私を憐れんでそんな嘘をついてるだけだ。だってトキはそんな素振りを見せなかった。いつも私を拒んでばかりだった。そんなトキが私を愛していた?信じない。信じられない。だって、だってだってだって。


「お前を愛していた故、トキはお前を拒んだ」

「…どういうことよ」

「俺もトキもいつ消えるか分からん星を背負っている。お前を受け入れたらどうなるか、分かるだろう」

「……!」


嗚呼そうか。なんだ。そうだったのか。いつ死ぬか分からないから。私を受け入れてしまったら、悲しむのは私だから。いつ死ぬか分からないから私に振り向く訳にはいかなかった。すべては私の為、だった?ゆっくりゆっくり、振り返る。そこには当然ケンシロウしかいないのに、何故だかトキがいた気がした。

気が付いたら私はケンシロウに飛び付いていた。トキはケンシロウ程筋肉隆々な身体ではなかったけど、でも今私が触れている身体は紛れも無くトキの身体だったのだ。


「…この身体は俺ではない」

「トキ、」

「トキだ」

「トキ、トキ」

「お前を抱くこの腕もトキ」

「トキ、嗚呼…!」


明らかに錯覚。幻覚。だけど確かに、トキが私の頭を撫でた気がした。





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