少し離れたところで留三郎がビリヤードをしている。近くには仙蔵と伊作がいて三人を囲むように女子がきゃあきゃあと騒いでいた。俺はひとりベンチに離れてストローでメロンソーダをずるずる。酒を飲む気も起きん。あの中に入ろうとも思わん。だから嫌だったんだ、合コンなんか。

元は留三郎と仙蔵と伊作だけでやるはずだった合コン。ところが女子が四人来ることになり、埋め合わせで俺が選ばれたのだ。何故長次を誘わんのだと怒鳴れば「長次はこういった場に慣れてないからさ」と伊作に言われ、なら小平太はどうしたと言い返せば「あいつは女の子無視して暴走した挙げ句四次会だ五次会だと言い兼ねないだろ」と留三郎に否定出来ない正論を言われ、じゃあ一年だけどタメの斉藤を呼べと苦し紛れに叫べば「まだ分からんのかお前は引き立て役だ」と仙蔵にハッキリキッパリ言われた。…いや、まあ、そんなはっきり言わんでも。

一次会は飲み屋でパーッとやって、今は二次会でアミューズメントパークにいる。生憎俺はビリヤードもダーツもカラオケも不得意だから遠慮して、冒頭に戻るのだ。


「…帰りてえ」

「おっす潮江」

「んぶっ」

「ありゃ?」


突然背中にばちんッと鋭い衝撃を受け飲んでいたメロンソーダで盛大に噎せた。げほげほと涙目で咳き込むと「ごめんごめん」と軽く笑って隣に座る女子。ああなんだ、先輩か。女子のメンバーのひとりだ。北石照代先輩ともうふたりは…俺のよく知らない人だった。興味もないから覚えていない。先輩は俺からメロンソーダを奪うと一口喉に流した。う、ちょ、間接キス…!先輩女なんだからもっと恥じらいとか持てねえかな。これくらいで動揺する俺もどうかと思うが。不意にジャケットに入れた携帯が震えた。誰だこんな時に。何も考えず反射的に開いてみる。







2011/ 3/11 22:39
From 仙蔵
Sub 無題
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喜べ。狙ってる先輩だろう。
何の為に私達がお前なんかを誘ったのかを今全力で考えて行動するんだな。

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あああああああの悪魔。ガタガタ震える手でビリヤードの方を見れば愉快そうに仙蔵が笑っていた。頭に悪魔の角が見える。畜生、そういうことかよ。意識した途端顔にカッと熱がこもった。畜生。携帯を乱暴に閉じてポケットに突っ込む。あいつらなんか知らねえ。あいつらの思い通りになるのも面白くねえ。帰ってやる。本気でそう思ったのに、その場から離れられなかったのは、離れたくなかったからだ。悔しいけど、今この場から離れるのは惜しい。先輩がくすっと笑った。


「潮江、顔真っ赤だけどメロンソーダで酔った?」

「いや、違います、けど」

「だよね、んな訳ないね。潮江はビリヤードしないの?」

「自分は苦手で」

「マジ?あたしも。立花くん達すごいね」

「は、はい」

「…潮江、正直さ、つまんなくない?」

「は?」


言われた意味が分からず思わず先輩の顔を見ると、小さな手がちょいちょいと手招きしていた。それは耳を貸せ、と言うことだろうか。それは、それはつまり、先輩と顔が近くなる。先輩の顔が、ち、近っ…。頭が爆発しそうになったがこれはチャンスなのだと考えてずいっと手招きに応えた。華やかな香りとアルコールの匂いがふわっと広がる。あまり見ていなかったが少なからず先輩も飲んでいるらしい。


「あたし、今日はただ照代の付き添いだったの。だから暇って言うかあんま面白くないってゆうか」

「は、はぁ…」

「だから潮江、一緒に抜けない?近くに美味しいラーメン屋があんの」

「…………え?俺と?」

「うん。ふたりで。嫌?」

「いッ嫌じゃない、です!」

「ちょ、しッ。こっそり抜けるんだから静かに」


思わず声をあげた俺の口を咄嗟に先輩の手が塞いだ。うわ、柔らけえ。女って別の生き物みたいだ。先輩の手が離れていくのが悲しく思えた。にしても、よっしゃ。今から先輩と三次会。しかもふたりで、だ。金はあるから奢ってやれる。そんなに飲んでねえから意識ははっきりしてる。よっしゃ。今日来てよかったかも知れない。先輩がいそいそと出る準備をする。ここの金は…いいや、仙蔵に出させよう。それくらいの我が儘許して貰わないと腑に落ちない。荷物を持って準備を終えた先輩と一緒にダッシュで階段を降りた。










アミューズメントパークを出ると、外は寒かった。冷たい風に肩をすくめる。あまりの寒さに鼻先が痛んだ。先輩は大丈夫だろうか。ちらりと見れば短いスカートがひらひら揺れている。いくらタイツを履いてても寒そうだ。早く室内に入らなくては。先輩の言ってたラーメン屋は何処か訊こうとした瞬間だった。腕に、ぎゅうっと細い腕が巻き付いてきたのは。身体が硬直したのは寒さの所為じゃない。驚き過ぎて身体が動かなかった。声も出ないし先輩の方も見れない。な、なん、ど、うすれば。なんでこうなった。ぽそぽそと小さな声が聞こえた。全神経を聴覚に使ってみる。さっきまで弾んでいた先輩の声が、弱々しい。


「あのさ」

「は、…はい」

「誘い乗ったし、嫌がらないってことはさ」


心臓がうるさい。耳が熱くて痛い。組まれた腕にじっとり汗をかいているのを、先輩は気付いているのだろうか。歩いたまま妙な沈黙が続く。あれ。先輩ってこんな小さかったっけ。至近距離で見る頭、髪、首から、肩。小さい。細い。やべえ、俺、ほんとこの人好きかも。口の中が乾いて唾を飲み込むのさえも困難だった。ぽそぽそ、また小さな声が聞こえた。


「期待しても、いいかな」


返事が出来なかった。代わりに腕を払って、手を繋いだ。畜生、それは俺の台詞だ。先輩がまたくすっと笑った。反対の手を使ってポケットの中で仙蔵にメールを打つ。悪魔の思い通りになるのは悔しいが、今日だけは踊らされてやるとするか。今日だけは。



かけおちごっこ







2011/ 3/11 22:50
From 文次郎
Sub Re:
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がんばる
金たのむ

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2011/ 3/11 23:02
From 先輩
Sub やったよ!
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今立花くんが教えてくれたラーメン屋に着きました!
立花くんありがとう!あたし頑張るね!

-----END-----








「仙蔵、何見てるの?」

「文次郎と先輩からのメールだ。世話の焼ける」

「上手くいくといいね。あ、文次郎のお金誰が払う?」

「決まっている。留三郎だ」





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110311/ten
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