身体が重たい。動かない。指先から冷たくなっていくのが分かる。だけど風穴の空いた腹からとめどなく溢れる血は、とても熱かった。今まで幾度となく戦場を駆け抜けて来たがここまで鮮明に『死』を覚悟したのは初めてだった。重たい瞼を持ち上げる。そこには頭領がいた。膝をついてるのか距離が近い。この御方はいつだってそう。綺麗なひとだ。


「何故庇った」


頭領の綺麗な形の唇が動く。なんだか少し震えていた気がした。こんな頭領を見たのは初めてだった。傷口がじくじくと痛む。だって、貴女に死なれたら困るのですよ。雑賀衆も私も。貴女には息をしていて貰わなくてはいけない。だから庇ったのです。そう伝えると頭領は私の頭をバシリと叩いた。結構痛かった。


「死など恐れない。私が消えても雑賀衆は消えない」

「…ですが、今はまだ、頭領に相応しい人間はいない」

「いる。私はお前を、」

「頭領」


頭領が何を言おうとしているのか分かって、遮った。それは駄目だ。いけない。雑賀衆当代としてそれは言ってはいけない。頭領は私を次代の頭領に選ぶつもりなのだ。私は過信でも嫌味でもなく、他の者より銃器の扱いに長けていたから。銃器だけではなく弓の腕もあったし薙刀を振るうことも出来た。私は頭領からも周りの者からの信頼も厚かった。だけど私は、頭領になれるとは思っていなかった。なりたいとすら思っていなかった。だって私は頭領のように賢くない。現にこうして庇うことでしか頭領を助けられなかった。頭領のように美しくも強くもない。私が頭領になることは出来ない。私は一生頭領を眺めて、御側にいるだけでいいのだ。そう思っていたから、惜しむのはひとつで済む。


「まだまだ、御側に、いとうございました」

「…この、からす、が」


頬にぽたりと生温いしずくが滴った。もしかしてまさか頭領は泣いているのだろうか?もしそうなら見てみたい。頭領が泣くところなんか見たことがないから。だけど視界が歪む。息が出来なくなる。頭領ああ、孫市様。お慕いしておりました。




















夜風にまたがるニルバーナ
101102
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