どくどくん。どくどくん。今聞こえてるのは私の心臓の音なのか。今伝ってくるのは彼の心臓の音なのか。全然分からない。頭の中が真っ白だった。私は今、長次の腕の中にいる。長次の鼓動を右胸に感じる。だから私の鼓動は長次の右胸に伝わっているんだろう。背中を包む大きな手が震えている。普段のあの冷静な長次からは考えられないことだ。震えてるのも、抱き締められるのも。本来の機能を投げ出して垂れ下がった私の両腕は動かない。畳に甲をつけているだけ。だって、身体が動かない。長次から抱き締められたのは初めてだった。


「…済まない」

「…なんで」

「急に、だった」

「…だいじょうぶ」


それ以上は声が出なくて唇を噛んだ。そんなつもりはないのに身体が強張ってしまう。そしたら長次が腕に力を籠めて私を強く抱き締めた。骨が軋むくらいの圧迫感に息が詰まる。苦しくて、少し怖かった。長次の制服を掴みながら顔を上げる。長次の切れ長の双眸に涙目の私が映った。そう。涙が浮かぶ程苦しい。それなのに、嫌じゃない。長次が目を見開く。どうしたの、という私の言葉は長次に飲み込まれた。

いったい、いま、なにがおきてるの。唇に別の存在が触れている。すぐ目の前に長次がいる。なんだか怖くて目をきつく閉じた。やっと口接けをされてるんだと理解した。それはすぐに離れて、お互い安堵に似た吐息をこぼす。それからまた重なる。それの繰り返しだった。初めての感覚が怖いのに、止めて欲しいとは思わなかった。身体が熱くなる。何も考えられない。重心がぐらりと揺れる。背中に硬い感触を感じて瞼を持ち上げると、見慣れた天井と長次が映った。長次が少し苦しそうな、何かに堪えているような顔をした。薄い唇がそっと、そっと開く。普段の長次からは考えられないくらい熱っぽい声が、鼓膜を撫でた。


「…好きだ…」


長次の唇が私の唇を塞ぐ。さっきと違って今度は触れるだけじゃなかった。深く深く貪られて、こわいと思った。手を動かす前に長次の大きな手に捕らわれて畳に縫い付けられた。長次の唇も手もとても熱くて、私達は溶けてしまうんじゃないかと思った。だけどそれも悪くないかも知れない。溶けて長次とひとつになれるのなら。長次の唇が喉をなぞる。大きな手が制服の帯をほどく。長次が堪らなくいとおしいと思ったら、何故だか涙がこぼれた。




















(100624)
リヒト 様に提出
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -