「うああ…きもちわる…」

「あんだけ飲べばなァ」

「すんませんんん…」


ぐらぐらがんがんぐにゃぐにゃぐるぐるずきずき。いろんな擬音が私の頭の中を駆け回る。流石に飲み過ぎた。でも仕方ない、今回の飲み会には黄猿や赤犬もいたのだ。ウチの青雉だけならまだしも他の大将がいる場でグラスを空にしないのは若輩者として有り得ない。それに黄猿がやたら飲め飲めと勧めてくるからその分だけ飲んで、私は完全にできあがったという訳だ。青雉補佐と言えど上司の酒を断る訳にはいかない。でも律儀過ぎた。途中はどうにかして水で誤魔化すべきだった。前後不覚にまで陥った私が自力で自室に戻れるはずもなく恐れ多くも青雉に運んで貰っている。肩を貸してくれたらよかったんだけど私と青雉では身長差があり過ぎて不可能だった。いわゆるお姫様抱っこなこの態勢は普段の私であれば恥ずかしくて死ねるくらいだが今の私は『普段の私』とは掛け離れていた為問題は無かった。


「そんだけ酔えるなんて、お前は幸せもんだわ」

「…青雉だって、酔えばいいでしょう…」

「無理無理。おれ酒結構強いから」

「たまには酔った方がいいですよ…羽目を外すのも」


大将である青雉には必要なことだと、そういったイントネーションを篭めたのだけど分かっただろうか。いつもだらけてサボってばかりだけど青雉はちゃんと考えて行動している。だからたまには羽目を外して吐いちゃうくらい酔っ払ったっていい。そう思うけど私は青雉が酔った姿を未だかつて見たことが無い。確かに酒には強いけど、ほんとうに酔うことは無いのかな。つまんないの。


「さ、着いた。水は?」

「ぜひ…」

「吐きそう?」

「峠はこえました…」

「…逞しいねお前は」


青雉がくすくす笑うのが分かったけど私は伏せた瞼を開ける気力すら無かった。ガチャリとドアが開く音して、次にパチリと電気のスイッチを押した音がした。この匂いは、私の部屋だ。少なくとも青雉の部屋じゃない。青雉の部屋はたくさんの書類でなんというか、紙臭いから。振動を最低限に抑えてベッドにゆっくり降ろされる。布団に沈むこの心地は間違いなく私のものだ。堅っ苦しい制服のボタンをひとつふたつ開けて深呼吸をした。峠は、こえた。これ以上飲まなければ吐くことはまず無いだろう。でも水は飲みたいかも。ゆるゆると瞼を開けたら暗かった。あれ、おかしいな。電気は着いたはずなんだけど。瞼をぱちぱちと上下させたら不意に鼻先に吐息を感じた。酒臭い、あれ、それって私?混乱する私の唇に冷たいものが触れた。触れているソレより冷たい水が流れ込んできたから抵抗せず嚥下する。飲み込み切れなかった分は口の端から零れたけど不快感は無かった。唇からソレが離れる。離れてから、気付いた。ソレは青雉のくちびる、だった。青雉が私を覗き込む。いつになく真剣な顔つきで、私は何故キスされたんだろうという抱いて然るべき疑問をすっかり忘れてしまった。


「おれは酔ってるさ」


誰かさんに。ニヤリと笑った青雉が私の唇に噛み付く。零れた水を舌で拭う。互いに零れた息が酒臭い。抵抗しようとしてか否か伸ばした手は呆気なく指を絡められて押さえつけられた。ぐらぐらがんがんぐにゃぐにゃぐるぐるずきずき。ああそれからもうひとつ。ぐちゃぐちゃになった。



飲んで呑まれて





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