「何怒ってるんすか」

「そう思うなら黙ってて」


はぁ、と曖昧に返事をする三之助を睨み付ける。手首に巻き付けた縄が溜め息を吐き出した気がした。

委員会中に三之助が行方不明になるのはいつものこと。委員長である七松小平太先輩がけらけら笑って「じゃあ三之助が戻って来たら解散な!」と言うのも以下同文。一年生の金吾を始め二年生の四郎兵衛も四年生の滝夜叉丸だってへとへとで早く休みたいのに三之助が戻って来るのを待ってたんじゃ一生長屋には帰れない。だから毎回私が三之助を捜しに行くのだ。滝夜叉丸は途中で動けなくなった金吾を背負って走っているから誰よりも疲労は濃い。ここで先輩の私が行かずして誰が行く(ほんとは行きたくないけど)すみませんと謝る滝夜叉丸に大丈夫だからと返して今日のランニングコースを走ること二刻、ようやく三之助を見つけた。奴は私達を捜していたのか砂まみれの泥だらけだった。三之助が何処かへ行く前に腰に縄を結びつける。こうすれば八割方はぐれずに済む(富松に教えて貰った)そうして冒頭に戻るのだ。


「俺何かしましたか?」

「別に何もない」

「怒ってるでしょ」

「何もないってば」


三之助を責めることは出来ない。三之助の迷子癖は無自覚であり無意識なものなのだ。そんな三之助にキレて当たり散らしても意味がない。私が疲れるだけ。だけど、腹は立ちっ放しだ。三之助が迷ったりしなければ委員会は早く終わるし余計な疲労を溜めずに済む。それなのにこいつは絶対迷う。行方不明になる。もう三年生のくせに私の案内がないと学園に帰ることも出来ない。これに腹が立たない人間はよっぽど心が広いかただの馬鹿のどちらかだ。私はどちらにも当て嵌まらないから腹が立つ。本当はぶん殴ってやりたいくらいに。


「先輩」

「…なによ」


縄をぐっと引かれて足を止める。振り返った私はたぶんひどい顔をしていたと思う。思うけど、なんだ、これは。


「先輩」


三之助の顔がすぐそこにあった。少し困ったような顔をして私の顔を覗き込んでいる。いや、ちょっと待て。かお、が、ちかい。なんであんたの方が背が高いくせに覗き込んでくるの。あんたって顔がイイんだからそういうことしちゃ駄目だって。思考回路がぐちゃぐちゃに混乱する。私が固まってしまったのをどう解釈したのか三之助はますます困った顔をした。


「すみませんでした」

「……」


三之助から謝られたのは初めてで少しびっくりした。こいつにも謝罪する能力があったのか。不謹慎にも熱くなる顔を逸らしながらコホンと咳払いを零す。まあ、仕方ないんだよね。三之助の迷子癖は今に始まったことじゃない。イライラしたって何も変わらない。私がピリピリしてるから三之助も不安になったんだろうな。下級生に気を遣わせるなんて上級生として情けないぞ私。砂っぽい頭をガシガシ掻いて三之助を見つめた。


「大丈夫。私もごめん」

「…怒ってないっすか?」

「怒ってない怒ってない」


笑って言えば三之助はほっとしたように息を吐き出した。うんうん、こいつも可愛い後輩なんだ。先輩なら笑って許してあげなきゃね。三之助に繋がる縄をしっかり握った。止まっていた足を再び動かして学園へ向かう。一刻も歩かないうちに門が見えてきた。よかった。やっと部屋に帰って休める。三之助、と振り返ったらそこには誰もいなかった。縄が途中でぶち切れている。さっきまで三之助に繋がっていたはずの縄、が。アアアアアあいつまさかまた迷子に…!


「三之助エエエエエ!」



憐れみラフプレー






(100505/エッベルツ)
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