「兵ちゃん」

「あ、着いて来ないで」

「うっ」

「うわ、馬鹿だなあ」


何やら木材を担いで学園を出ようとする兵ちゃんに声をかけたらそう言われた。そして兵ちゃんが振り返るものだから担いでいた木材の前方部分がわたしの頭にクリーンヒットした。やば、痛すぎる。頭を押さえて悶絶していたら兵ちゃんは謝りもせずくすくすっと笑った。兵ちゃんが他人に謝らないのは知ってるし他人の不幸は自分の幸せと言っても過言じゃないくらいドSなのはよく理解してる。もう慣れてるけど、与えられるダメージには慣れない。肉体的にも精神的にも。涙目になりながら兵ちゃんを見上げれば兵ちゃんはやっぱり笑顔だった。


「面白い奴。何してんの」

「兵ちゃん、何処行くの」

「お前には関係無いじゃん」

「…ど、どうかわたくしめお教え下さい」

「んん、そこまで言うなら教えてあげるよ」


兵ちゃんはこう言わないと何も教えてくれない。近くにいた小松田さんがびっくりして外出許可書を落っことしていた。びっくりするよなあ、いきなりこんなこと言えば。嫌だなあもう、恥ずかしい。わたしは痛いことも恥ずかしいことも嫌いだからMじゃないんだけど、兵ちゃんはわたしを虐めるのが好きだ。困ったものである。兵ちゃんは楽しそうにニンマリ笑うと木材をパシンと叩いた。


「今から裏裏山に行ってカラクリを作るんだ。学園じゃ狭くって」


学園じゃ狭いって…この男は一体どんなカラクリを作るつもりなんだろう。あの立花先輩が一目置くというのも頷ける。兵ちゃんはカラクリを作るのが楽しみでしょうがないみたいでとてもにこにこしている。こんなに可愛らしい男の子があんなドS発言をするんだからびっくりだ。やっと痛みが引いてきた頭から手を離す。こんなにたくさんの木材が必要なんて、一体どんなカラクリを作るのかな?


「わたしも行ってい」

「駄目」

「じゃ、邪魔しないか」

「駄目」

「おねが」

「駄目」


そ、そんなに拒まなくたっていいじゃないか…!わたしは兵ちゃんのカラクリに純粋に興味があるだけなのに!あ、まずい涙が出そうだ。目に見えてしょんぼり落ち込んだら兵ちゃんは溜め息を吐いた。あ、どうしよう。嫌われちゃったかも。うざい女だって思われたかも。だって兵ちゃんがひどいんだもの。わたしも泣きたくなるよ。たまには言い返してみようかな。たまには。たまには、いいよね。涙を堪えて顔を上げる。視界に映った兵ちゃんは、呆れたような顔をしていた。


「言ったよね?学園じゃ狭いから裏裏山に行くって」

「言った、けど、でも」

「それだけ危険なカラクリを作るのに、お前が来たら危ないだろ」

「……え」

「それくらい分かってよ」


じゃあね。と兵ちゃんはくるりと踵を返した。そうするとまたわたしの頭に木材がクリーンヒットした、けど。わたしは兵ちゃんの背中が見えなくなるまで見つめていたから痛みなんか気付かなかった。気付けなかった。兵ちゃんが、兵ちゃんが、あんなことを言うなんて。夢なのかな。頬っぺたをつねる。あんまり痛くない。夢なのかな。ああ夢なら、覚めて欲しくない。いつもひどいくせにたまに優しくなるから、離れられない。わたしはやっぱり兵ちゃんが好きだなあと思った。





Thank You Kanoko!
100907/ten
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