「長次、長次ってば」
「……」
「ねえ、ごめんね」
「……」
困ったものだ。長次はわたしに背中を向けていてぴくりとも動かずウンともスンとも言わない。わたしはそんな長次に頭を下げるだけ。こんな状態がかれこれ一刻は続いている。理由は簡単明白、わたしが長次のとっていた団子を食べてしまったのである。暇だから長次の部屋に行ったら長次はいなくて、机の上に美味しそうな団子があった。みたらしのタレでコーティングしてあった団子はぴかぴかに輝いていて「食べておくれよ」とわたしに語りかけてきたのだ。たぶん。ふたつあった団子のうちひとつをぱくりと食べた瞬間小平太が廊下を通り掛かった。そしてわたしの食べていた団子を見て「私もくれ!」と言うから残りのひとつをあげた。小平太は団子を片手にいけいけどんどーん!と叫びながら走り去って行き、わたしは最後の一口を食べ終わった、時に長次が部屋に帰って来た。空の皿を見た後わたしの顔をガン見した。何故ならわたしの口の周りにみたらしのタレがついていたのである。恥ずかしい。素直にわたしと小平太で食べたと白状した。それで長次は怒って口をきいてくれなくなり、冒頭に戻るのだ。
「同じの買って来るから」
「……」
「長次〜…」
そりゃあ勝手に食べたわたしが120パーセント悪いけどそこまで怒ることはないじゃん。わたしもう50回以上謝ったよ。ずっと土下座してるんだよ。足が痺れてきたし頭下げまくったからおでこも痛いよ。…わたしが悪いんだけどね。ちょっと泣きそうになっていたらハアと溜め息が聞こえた。見れば長次の肩ががっくりと落ちている。ゆっくりと肩越しに振り返った顔は怒っているというより、なんだか悲しんでいるみたいだった。
「…あれはお前と食べる為に、買ったものだった」
「…え?わたしと?」
「なのにお前は小平太と…」
ハアア、と長次はまた溜め息を吐き出した。わたしは目をまんまるに揺らす。長次はわたしがつまみ食いしたことに怒ってたんじゃなくて、わたしが団子を小平太に分けたことを悔しがっていたんだ。そう思ったら申し訳ない気持ちが半分、なんだか無性に嬉しい気持ちが半分込み上げてくる。痺れた足を引きずるように四つん這いのまま長次に近付いた。長次の背中にぎゅうとしがみつく。長次は逃げない。怒りもしない。
「ごめんね長次」
「……」
「今度の休みは一緒に団子食べ行こう。行って下さい」
「…仕方ない」
行ってやる。もそもそと呟いた長次の顔がうっすら赤くなっていたのは見間違いじゃないだろう。
愛し愛され
(100501.ten)