朝起きると、部屋には誰もいなかった。料理の仕込みをするから普段は俺が一番に起きる。それなのに。寝起きがクソ悪いあのルフィもいない。俺が寝坊するとは考えられないが、どういうことだ。とりあえずまずは顔を洗って部屋を出る。空は白くて海は穏やか。船は静かだった。空を見る限り時間はまだ明け方、寝坊した訳じゃないらしい。…俺はコックだ。悩む前に朝飯を作ろう。頭を掻きながらダイニングへのドアを開いた。するとパパパパンッ、と何かが弾けるような音が耳を突いた。目を瞬かせて見ればルフィを始め、クルー達がにんまり笑って俺を見ている。手にはクラッカーが握られていてさっきの音の正体はコレだと解った。ダイニングの壁には色紙のわっかで作ったチェーンがたくさんぶら下がっている。


「誕生日おめでとう!」

「おめでとうサンジくん」


「これ俺達からだ!」


ルフィが叫ぶくらいでかい声で言ってナミさんがにっこり笑って、俺は思い出した。そうだ。今日は俺の誕生日だった。別に祝ってくれだなんてガラでもない訳ですっかり忘れていた。照れ臭いが、素直に嬉しい。チョッパーが差し出すいびつな形のケーキを見てつい吹き出した。朝起きて誰もいない理由が解った。俺より早く起きてこれを作っていたのか。コックから言わせてみれば誰かに食わせるにはふざけたナリのケーキだったが今の俺には申し分ない。いつも作る側だから何か料理を作って貰うのは久々だった。ウソップとゾロが眠そうにしているのも気にせずチョッパーからケーキを受け取る。テーブルに着こうとして、ひとりクルーが足りないことに気付いた。訊いてみようと思ったらタイミングよくナミさんが口を開いた。


「あの子なら今さっき部屋に行ったわ。サンジくんが起きるまで寝とくって」

「あぁ待ってナミさん、俺が行くからいいよ」



ダイニングから出て行こうとするナミさんを呼び止める。なんでもこれを企画したのはあいつで一番早く起きてケーキを作っていたらしい。料理なんざ滅多にやらないだろうに馬鹿な奴。それでも俺の為だと思うと頬が緩んだ。ダイニングを出て足早に女部屋に向かう。扉をノックしてみたが返事はなかった。確か彼女もルフィ同様寝起きが悪かった筈だ。失礼を承知でドアを開ける。予想通り一番奥のベッドに、彼女は寝ていた。近付いてみればすうすうと寝息をたてているのが解る。起こそうと伸ばした手は届かず俺はベッドに座った。気持ちよさそうに眠る彼女を起こす気になれなかった。


「ありがとよ」



前髪を撫でて傷だらけの彼女の手を取る。そっと唇を寄せると彼女は頬を緩ませた。バラティエでも何度かバースデーパーティーを開いて貰ったことがあるが、なんだか今日は一番楽しいパーティーになりそうだ。メインは勿論いびつなバースデーケーキで。








(100302)
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